約 194,391 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2057.html
注・ゆっくりらしからぬゆっくりが出ます。 幻想郷の人里から少し離れた場所に緑の森が有る。 その森に住んでいるゆっくり達はとても幸せだった。 何故ならここには外敵である筈のれみりゃなどもほとんどやって来る事も無く、人里の人間も好んで立ち入る事も無かった。 時折、無謀なゆっくりが人里に悪さをしに行く場合も有ったが、再犯でもしない限りは直ぐに殺される事も無い。 流石に2,3度となれば別だが、そこまでの再犯を重ねるゆっくりで有れば、逆に人間に裁いて貰った方が平和になる。 幻想郷の人間は融和的で、罪を犯したゆっくりとその他のゆっくりを混同するなどという、短絡的で愚かな考えはしなかった。 その為、狩りや木の実の採取に長けたゆっくりまりさと、ぱちゅりーにも負けない明晰な頭脳を持ったれいむが率いるその群れは、 仲間同士で争う事も無く、困った事が有れば群れの仲間同士で協力し日々を謳歌していた。 ある越冬の時では、食料が芳しくない家の者に群れのゆっくり達が少しづつ食料を提供し、その家族は無事一匹も欠ける事無く冬を越した。 ある梅雨の季節では、暴風で破壊されたゆっくりの家が有ったが、群れのリーダーであるまりさはその家が直るまで住人を快く自らの家へと招き入れた。 相互扶助。 その群れのゆっくり達は全て、その言葉は知らずとも、その行動を実行する事が出来た。 かつ、いつまでも他の者に頼るなどという甘い考えのゆっくりなどは存在せず、この群れはとても良好に機能していた。 やがてそのまりさとれいむは群れの皆から祝福され結婚して家族となり、より一層の繁栄を為し得るかに見えた。 そう、一週間程前までは。 「ゆぅぅ、なんでこんなことに・・・」 薄暗い洞窟の奥で、ボロボロの身なりのれいむが居た。 少し前まで群れの長であったれいむである。 黒々とした艶の有った髪も見る影も無く荒れ、頭のリボンもネズミにでも齧られたかのように所々千切れている。 それにも増して、かなりの暴行を受けたのだろうか、その身体にはそこかしこに真新しい傷が出来ていた。 その場所にしても、洞窟の中の狭い一室の入り口を柵で覆い、まるで牢屋のように作られている事から、その状況が尋常で無いのは一目瞭然であった。 「まりさたちはだいじょうぶかなぁ・・・」 いつまでも続くかに思えた幸せの時を思い出してしまい思わず嗚咽が漏れる。 最愛のゆっくりを思い浮かべると涙が零れる。 部屋の片隅で丸い身体を震わせ、えぐえぐとただ悲嘆に暮れなき続けるしか、今のれいむには出来る事は無かった。 一週間前、群れで大規模な反乱が起こった。 その反乱により、群れを率いていた群れの幹部達の多くは捕らえられてしまったのだ。 夫であるまりさと子供達は間一髪の所で逃げ出す事に成功したが、れいむはその時自ら犠牲となり囚われの身となってしまった。 「ゆふふ、惨めなものね」 そんなれいむを嘲笑うような声が聞こえたかと思うと、数匹のゆっくりがその部屋の中に入ってくる。 先頭のゆっくりは普通のゆっくりには扱えぬ筈の火の付いた松明を口に咥えている為、部屋の中が一気に明るくなった。 ほとんどは数週間前に群れにやってきた新参のゆっくり達だが、中には昔から群れに住んでいた見慣れた顔のゆっくりも居る。 そして遅れて入ってきたゆっくり。 煌びやかな髪が松明の炎に照らされて鮮やかな光を放ち、その優雅な佇まいにはゆっくりで有りながらも何処か厳かな雰囲気を漂わせる。 薄暗い洞窟の中でそのゆっくりの存在感は一層際立ち、周りの者の眼を引く。 「ゆっ!?おまえは……ゆっくりしねぇ!!」 涙を流していたれいむであったが、その姿を一目見た瞬間、まるで鬼にでも取り付かれたかのような形相に変わり目の前のゆっくりに飛び掛かろうとした。 だが、周りの者達がすぐさま盾となりそれを阻み、れいむを跳ね飛ばす。 そのまま壁に叩き付けられ「ゆぐぅ」と短い呻き声を上げたれいむに、追い討ちとばかりに数匹のゆっくりが圧し掛かる。 「いつもむだなことをしないでね!!ゆっくりりかいしてね!!」 「いたいよ、ゆっくりやめっ、てびゅっ!!やめて、に”ゅ!!」 「ちーんぽ!!ちーんぽ!!」 まりさ種やみょん種、中には同種のれいむ種まで居る。 それらは足元のれいむの声などに一切耳を貸さずにひたすら飛び跳ねれいむを苦しめる。 数は元よりろくに食事も食べていない弱ったれいむは成す術も無く、そこから逃げ出す体力も無い。 「ゆぐっ、やめ”、びょひゅ……いだい”よ、ゆっぐりぃ」 「おお、よわいよわい」 「な”んでごんな……ゆべっ!!ゆびぃ!!」 反論を挟む余地の無い暴力。 段々とれいむの眼から生気が失われていき、その叫び声も「ゆぐっ!!ゆげぇ!!」から「ゅみゅ…、ゅきゅ……」と弱々しくなっていく。 淡々と行われるその暴行を冷ややかな眼で見詰めていたあのゆっくりがズイッと前に出ると、周りの者はそれに反応してすぐさまその場から飛び退いた。 後に残されたのは、その口から餡子を垂れ流し、楕円形の形になってしまった瀕死のれいむである。 「ゅ……ゅ……」 「おやおや、わらわがわざわざ会いに来てさしあげたのに、あなたはもうゆっくり死んでしまいますの?」 ビクビクと痙攣を始めたれいむの前で、明らかに他のゆっくりとは違う流暢な話し言葉で呼び掛けた。 すると、このまま死んでしまうかに見えたれいむの眼に少しだけ光が戻る。 そして動かぬ身体で眼だけを動かし、眼の前のそのゆっくりを憤怒の炎が宿った眼で睨み付けたのだ。 「ゆぐぐ…このぉ、おんしらずのゆっぐりめぇ……」 「ゆふふ、わらわはそなたの様なゆっくりに受けた恩など覚えがありませぬ」 「ゆぎぃぃ!!きさまなんか、れいむとおなじれいむなんておもえないよ!!」 憎しみを込めて力一杯に叫ぶと同時に、横から別のゆっくりが体当たりをし、れいむは又もや吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。 「おまえのようなゆっくりとおなじにするなだぜ!!はくれいむさまとおよびするんだぜ!!」 取り巻きの一匹であるまりさが体当たりをし、そうれいむに対して叫ぶ。 その後ちらりと、はくれいむと呼ばれたゆっくりれいむに眼を向け、ニヤリと口元を歪ませる。 はくれいむに惚れているのだろうか。 まりさなりのアピールを欠かさない。 はくれいむと呼ばれたそのゆっくりはれいむ種でありながられいむ種ではなかった。 髪は透き通るように白く普通のれいむ種の黒とは対極にあり、暗闇の中でもその存在感は際立っていた。 更には頭に付けられているれいむ種のトレードマークであるリボンも、赤い部分は真っ白に染め上げられ、その姿は正に「はくれいむ」と呼ぶに相応しかった。 姿だけでは無い。 その雰囲気もれいむ種どころか、他のゆっくりと一戦を隔す程に厳かで幽玄。 ゆっくりでありながらも、カリスマと言うべきだろうか、他ゆっくりを引き付ける何か持っている。 だがその本質は残酷で冷徹。 一ヶ月程前に数匹の取り巻きと群れに加わり、独自のやり方で群れの指導者に気付かれずに多くの仲間を作っていき、 瞬く間に反乱を起こして群れを乗っ取った。 そう、彼女こそが例の反乱の主導者であり、眼の前のれいむの幸せを打ち砕いたゆっくりなのだ。 そして一方のれいむは打ち付けられた衝撃と積み重なった暴行のダメージで「ゆべぇぇぇ!!」と汚らしく餡子を吐き出し続けるばかりである。 「おお、ぶざまぶざま。わらわがこのようなゆっくりと同じなど、考えただけでおぞましい」 そんなれいむの様子を中傷した笑みで見ながらそう呟くと、周りの者も全くだとばかりに笑いの声をあげる。 れいむは言い返す気力も無く、ただただ餡子と涙を吐き出し続けるだけであった。 クスクスと笑いながらその様子を暫く眺めていたはくれいむであったが、ふと思い出したようにれいむに問い掛ける。 「……ところで、あなたの夫であるまりさは何処にいるのかしら?」 かなりの量の餡子を吐き出し若干落ち着いたれいむは、その言葉にピクリと反応する。 だが、返答する気配は見せず貝のように押し黙ったままだ。 「はくれいむさまがしつもんしているんだぜ、ゆっくりこたえるんだぜ!!」 「……ゅ、なんどきてもれいむはこたえないよ」 一瞬言葉に詰まった。 ここに来てから何度も尋問され、その度に拒否をして暴行が行われる。 餡子脳であるがその恐怖はこの一週間でしっかりと刻まれ、その痛みと恐怖を思い出して少し言葉に詰まった。 だが、れいむは愛するまりさを裏切る気など毛頭無い。 例えこのまま殺されても絶対に喋らないと、そう心に誓っていたのだ。 「ゆゆっ!?うそをつくんじゃないぜ、おまえがにがしたんだからどこにいったかしっているはずなんだぜ!!」 「れいむはしらないっていってるよ……ゆっくりりかいしてね」 「ゆぎぃ!!おまえそんなことをいってどうなるかわかっているんだぜ!?」 れいむの馬鹿にしたような受け応えに、頭に青筋を浮かべそうな程に真っ赤になりながらまりさは凄む。 だが、周りは敵だらけというそんな状況でもれいむは怯えた表情も出さず、その口元に笑みを浮かべ。 「でも……まりさならめのまえにいるよ?」 「ゆっ?どこなんだぜ!?」 そうれいむが呟くとまりさはキョロキョロと見渡すが、何故か周りのゆっくりは一斉にそのまりさの方を見る。 「ゆぅぅ、でもわたしのしっているまりさとはちがうみたいだね」 「ゆ?どういうことなんだぜ?」 「わたしのしっているまりさとちがって、ばかでゴミくずでまったくゆっくりできてないね」 「ゆゆっ!??」 れいむのその言葉に唖然となり、その餡子脳に考えを巡らす。 このれいむはなにをいっているんだぜ? まりさがきいているのはむれをひきいていただめまりさで、ここにいるのはこのさいきょうまりささまだけなんだぜ。 そのうえ、ばかでゴミくずでゆっくりできない? だれのことをいってるんだぜ? 暫くグルグルと考えを巡らすと、流石のまりさにもどういう事か理解出来てきた。 れいむはしてやったりという風にその口元に中傷の笑みを浮かべる。 「ゆぅ!!こ、こいつ、このまりささまをばかにしてるんだぜ!?」 「ゆゆっ、ゆっくりりかいできたんだね。ゴミくずからオガクズにいいかえてあげるね」 湯気が出そうな程に全身を真っ赤にして、瀕死のれいむ今にも飛び掛らんとするまりさ。 その様子に怯む事無くれいむは更に罵倒を続ける。 「あかくなったらつよくなるとでもおもってるの?さんばいなの?しぬの?」 「ゆぎぃぃぃ、まりさはおこったんだぜぇぇ!!ゆっくりしねぇ!!」 このまま嬲り者にされたまま生き長らえるくらいなら、このまま死んだ方が良いとれいむは思っていた。 そうすれば、れいむを助けに来ようとするまりさを危険な目にあわせる事も無い。 ただ一つ心残りが有るとすれば、最後に一度で良いから愛する家族に会いたかった。 それを思うとやはり涙が零れる。 そして死が怖くなり、段々と震えが起きそうになる。 れいむはそんな湧き上がるものを、歯が欠けそうなほどに奥歯を噛み締めてぐっと堪えた。 こんな非常なゆっくり達にこれ以上惨めな姿を晒さないためである。 まりさが地を蹴る瞬間、れいむはそっと眼を瞑る。 すると死ぬ事への恐怖も不思議と消えていった。 はくれいむに一矢報いたかったが、この馬鹿なまりさに屈辱を味あわせてやっただけで満足しよう。 れいむはそう思った。 「ゆっくりお止めなさい!!」 突然、その部屋に怒声が響く。 その声にれいむを殺そうとすべく飛び上がる瞬間のまりさは身を竦めて動きを止める。 周りの者も眼を丸くして、はくれいむの方を見遣る。 「おお、愚か愚か。そのようなゆっくりの罵詈雑言に耳を傾けるとは」 「ゆぅ……でもはくれいむさま、こいつはまりさのことをばかにして……」 「お黙りなさいな。このゆっくりは死ぬ気力も無いから口先であなたを煽動し自らを殺そうとしているだけなのですよ」 「ゅぅ……」 「それにこれ以上やっては死んでしまいます。このゆっくりにはまだまだ役に立って貰わないと」 まりさは、はくれいむにそう諭され眼を地面に落とす。 格好良い所を見せようと張り切ったつもりがこんな事になるとは思っていなかった。 「ゆふぅ……あなたはまだまだ激流にゆっくりと身を任せる事が出来てないようですわね」 そんな様子のまりさにはくれいむはそう呟き、一瞥する。 その顔はこの世の終わりとでも言おうか、先ほどから一転、真っ青に血の気が引いている。 「ですが、あなたの忠義心は十分に評価していますわ。今後もわらわの部下として精進なさい」 思いも寄らぬ言葉。 それを聞いてまりさの表情はぱっと華やいだ。 二転三転、器用なものである。 しかし、はくれいむのその飴と鞭の使い分け様はやはり他のゆっくりには真似が出来るものではなかった。 周りで見ている者達も、仲間といえどまりさの馬鹿さ加減に呆れる一方で有ったが、逆にそれを許すはくれいむの懐の深さを際立たせる所となった。 そしてはくれいむにとってこの一連の流れは十分に計算通りのものであり、愚かなまりさを傍に置いている理由の一つでもある。 正に悪のカリスマというべきであろうか。 「ゆゆっ、そんなことをいいながられいむをころすどきょうがないだけなんだよね!!」 その一連のやり取りの中、れいむが声を上げる。 はくれいむを挑発しているのだ。 「ゆふふ、愚か者は声だけは立派に張り上げますのね」 「そうやってゆっくりしてられるのもいまのうちだけだよ、はやくれいむをころさないと、ゆぐっ!!?」 そんなれいむの言葉を遮る様に周りのゆっくり達が二匹回り込み、その口に縄を噛ませる。 れいむはモガモガと口を動かすが一向に外れようとしない。 後ろでちぇんが器用にその縄を結び、猿轡が完成した。 れいむの唯一の抵抗を不可能にし、これ以上餡子を吐かれたりするのを防ぐためである。 「ふぁにするの!?ふっぐぃ、ふぁずしてね!!(なにするの!?ゆっくりはずしてね!!)」 「なにいってるかわからないよー♪」 ちぇんのその言葉に周りのゆっくりは苦笑し、バタバタと暴れるれいむに冷ややかな視線を浴びせる。 そして、はくれいむは周りの一匹に目配せした。 松明を咥えたゆっくりみょんである。 そのままみょんはじりじりとその松明をれいむへと近付けて行く。 「ふぐっ!!ふぁぐいよ、ふっぐりふぁがれてね!!(ゆぐっ!!あついよ、ゆっくりはなれてね!!)」 「ふぁめてね!!ふぁ……あ”ぐぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!(やめてね!!やめ……あづぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!)」 壁に追い込まれたれいむの身体にその松明の先端が押し付けられる。 逃げる事も適わずにその肌は焼け焦げていき、チリチリと髪が焼け千切れていく。 左右に避けようとしても、周りのゆっくりに押し戻される。 「ふ”ぇい”ぶが、ふぉべち”ゃう!!ふぉべちぁうっべばぁぁぁぁ!!(れいむが、こげちゃう!!こげちゃうってばぁぁぁぁ!!)」 「ゆへへ、さっきまでのいせいはどこいったんだぜ?」 まともな言葉も出せずに涙を流して壁へと張り付くれいむの無様な姿を見て、先ほどのまりさも溜飲が下がったようだ。 必死の形相のれいむに構わず、みょんはグイグイとその火をれいむに押し付ける。 辺りには焼き饅頭の香ばしい匂いが立ち込め、それが段々と焦げた匂いへと変わっていく。 すると急に、ぼわっとれいむの頭に火の手が上がる。 本格的に髪に引火してしまったのだろう。 「ふぎゅあ”ぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”ぁあぁ!!」 頭に火を付けて眼を見開き、言葉に成らぬ叫び声をあげたれいむに松明を持っていたみょんも思わず後ろに下がる。 引火した火を消そうとれいむがゴロゴロと地面に転がり、その様子に周りで見ていたゆっくり達も後ろへと退いた。 「びゅぅべいぶのびゃびばぁぁ!!おびぼんぎゃあぁぁあぁぁ!!(でいぶのがみ”がぁぁぁ!!おりぼんがぁぁぁぁぁ!!)」 「ぶぁふへへ、ふぁりしゃあぁぁあ!!ぶあぁぁぁりじゃあ”ぁぁぁ!!(だすけてぇ、まりじゃあぁぁあ!!ま”あぁぁぁりざあ”ぁぁぁ!!)」 一度は死を覚悟しながらも、じわりじわりと蝕む苦しみに思わずれいむはまりさに助けを求める。 だが当然まりさは来ない。 身体の全水分を眼から垂れ流しながら、必死に愛するゆっくりの名前を叫びながられいむは転げ回るだけだ。 やがてそのまま全身に火が廻り焼け焦げてしまうかに思えたその様子を、たじろぐ事も無く見ていたはくれいむは後ろに控えていためいりんに合図を出す。 すると、めいりんが咥えた水の入った容器をれいむに投げつける様にぶつけ、辺りに水が飛び散ると共に見事に炎は鎮火された。 「まりさもひをけすのにきょうりょくしてやるんだぜ!!ぺっ!!」 「わかるよー、ちぇんもしーしーしてあげるねー♪」 そのまま痙攣を繰り返すだけの動かないれいむに対して、無情にもまりさは唾を吐き掛け、ちぇんもチロチロと尿を浴びせ掛ける。 その後に、ちぇんはれいむが死んでいるのか不思議そうに眺めていたが、 未だにプスプスと煙をあげてはいるものの、何とかれいむは生きているようだ。 「めいりん、そのゆっくりの縄を外して差し上げなさい」 「じゃお!?じゃおおおおおお!!」 戸惑いはしたものの、めいりんはれいむに結び付けられていた猿轡を外しに掛かった。 縄は半分焦げ付いていたので、結び目を解く必要も無く簡単に外れる。 そのままめいりんは、半分焦げ饅頭になったれいむの顔を覗き込んだ。 髪は以前の半分の所まで焼けて巻き上がり、アフロとまではいかなくても奇抜なものとなっていた。 その上リボンも所々焼け、穴がそこかしこに覗き、以前のれいむからは見る影も無い。 「……ゅひゅぅ……ゅひゅ……」 顔を近付けてみるとどうやら息をしている。 めいりんはホッと、ゆっくりには存在しない筈の胸を撫で下ろした。 今はこのようにはくれいむの部下となってはいるものの、めいりんは自身を群れに加え、 野生では虐められるのが当たり前の自分を一ゆっくりとして扱ってくれたれいむが好きであった。 ただ、反乱の時は突然の事でどちらに味方すれば判らず、オロオロしている内に群れははくれいむの手中に収まり、めいりんも言われるがままに部下となってしまった。 しかしそうは言ってもそう簡単に割り切れるものでは無く、このようにはくれいむの部下でありながらも気付かれずにれいむの身を案じる事もあった。 「めいりん、よく出来ました。ゆっくりお下がりなさい」 「じゃおぉぉぉ……」 「ゆ!?このばかめいりん。ゆっくりさがれとおっしゃってるんだぜ!!」 「じゃお!?」 はくれいむの呼び掛けにすぐに応えなかっためいりんに、まりさが身体をぶつける。 大した痛みは無いものの、目の前のれいむに何もして上げられない事を悔しく思い、めいりんは悲しい顔をしたまま後ろへと下がる。 残されたれいむは火傷の痛みだろうか、白目を向いたまま時折ビクリビクリとのた打ち回る。 「ゆふふ、今日はこのくらいかしらね」 れいむのその様子を満足そうに眺めながら、はくれいむは口元に笑みを浮かべる。 そのまま近くのゆっくりに何事かを囁くと、くるりと踵を返してその場を後にしようとした。 後ろには側近の者達が続き、後には命令を受けたゆっくりとその他に数匹のゆっくりが残る。 監視役とれいむの世話をする群れに長く居たゆっくりである。 はくれいむはこの様にして群れに長く留まっていたゆっくりの自分に対する忠義心を試し、旧体制の反乱の芽を潰すよう心掛けていた。 れいむの世話をしているゆっくりが何かしら不穏な動きをすれば監視役がそれを報告し、即座に対処する。 新たなる群れを作るのに不穏分子は早く潰すに越した事は無い。 敢えてれいむに近付け、その選別を行うのだ。 「あ、そうそう……」 突然ピタリと、はくれいむはその歩みを止め「今日はそなたの親友を招いていたのであった」と振り返らずに話し出す。 「先日であろうか、そなたを助けようとわらわ達に歯向かった愚か者達がおってな」 「確か主犯格はぱちゅりーと名乗る者だったらしいが……」 その言葉に、混濁していたれいむの意識が揺り動かされる。 れいむの最も信頼のおけるゆっくりの内の一匹。 子供の内から一緒に群れで暮らしてきたゆっくりに違いない。 「ちぇんよ、あれを持って来させよ」 「わかるよー♪」 はくれいむにそう言われたちぇんはピョンピョンと何処かに跳ねて行き、暫くすると何匹かのゆっくりが風呂敷に包まれた何かを引き摺るようにやってきた。 ゆっくりと、れいむの捕らえられた部屋へと風呂敷が運び込まれる。 「ぱ……ちゅ、りぃ……?」 グルリとれいむの眼が白目から黒目へと切り替わり、弱々しく声をあげる。 眼の前の風呂敷の中にぱちゅりーが居るのだろうか? 自分の為に捕らえられてしまったというのか? そんな疑問が浮かび、哀しみが込み上げて来る。 その一方で不謹慎ではあるが、今まで会う事が出来なかった仲間に会う事が出来る事への喜びが湧き上がったのは確かであった。 れいむのその眼に微かに光が戻ったのを確認すると、はくれいむが合図を出す。 するとばさりとその風呂敷が広げられ、そこには丸い物体が置かれていた。 紫色の帽子に月の飾りを付け、その更に紫色の美しい髪は昔のまま色褪せてはいない。 間違い無い、れいむの親友のぱちゅりーだ。 「ぱちゅ、ぱぢゅりー、よがっだ、いぎでだんだね」 もう、ろくに動かない身体をズリズリと動かして、そのぱちゅりーへと近付く。 半分焦げた身体に痛みがまだ有ろうが、眼の前に親友がやってきてくれた事でそんな事など気にもならなかった。 ジッとれいむの方を見詰めるぱちゅりーに少しづつ近付いて行く。 「ぱちゅりー……ぱちゅり……ぃ?」 やっと肌を接する程に近付いて、ある異変に気付く。 このぱちゅりー、先ほどから身動ぎ一つしないどころか、眼を開けたまま瞬き一つしないではないか。 それに近くで見ると判る。 肌が何処か変な、何と言うか乾いているというべきであろうか、あの瑞々しさが無い。 更に近付いて、肌を接してみるとあの柔らかいぱちゅりーの身体とは思えない、岩肌にも似た感触を覚える。 そのままぱちゅりーに呼び掛けながら、顔を覗き込む。 返事も無く、そしてその瞳は眼の前にいる筈のれいむを捕らえることも無く、何処かずっと遠くを見ているようだ。 光が無いその眼もやはり乾いていた。 周りのゆっくり達もその異常さに気付く。 「こ、これ……」 「それを作り出すのには苦労した」 異変に気付いたれいむの様子に、満足そうにしながらはくれいむは説明を始める。 「わらわの美意識からしても、反逆者とはいえそのぱちゅりーは中々に美ゆっくりであってな」 「どうにかして、その姿を永遠にゆっくりと留められないだろうかと思案したのじゃが……」 凍り付いた表情でれいむは、はくれいむへと視線を泳がす。 「他の反逆者に協力してもらって、どうにか作り上げる事に成功したわ」 「樹に吊るして下から炎で燻しあげる……そなたのような愚か者には理解出来ぬだろうが、燻製焼きというものであってな」 「ただ普通にやっては、他の反逆者のように最後は見るに耐えない悲惨な表情で死に絶えるものだから」 「そのぱちゅりーは飾りを取った後、全身にきつく布を巻きつけて表情が崩れぬよう工夫したのじゃ」 この眼の前のゆっくりは何を言っているのだろう? れいむはそんな表情で何も言えずにその言葉を聴き続けた。 「一番難しかったのは、閉じたままはつまらぬ故に事前に眼の周りを動かぬよう焼き固めておく事だったわ」 「その時には酷く抵抗しておった……むきゅむきゅと泣き叫びながら、そなたの名前も大声で叫んでおった」 「後は両目だけを覗かせ、先ほど説明したように蓑虫の様に布を巻きつけ吊り上げ、一晩中下から煙で燻し上げたのじゃが……」 「そこから覗く瞳はひたすらに涙だけを流し、赤ん坊のように潤んだそれは何処か愛おしさすら覚えたのぅ」 「絶命する随分前には、もはや瞳の水分は完全に失われて何も見えてはおらなかった様子だが」 途中から、れいむの頭の中を鐘がガンガンと打ち鳴らすように感覚を覚えた。 普通のゆっくりであればはくれいむの喋る事を半分も理解できなかったであろうが、半ば賢いだけにれいむはその残酷な情景を頭に浮かべてしまった。 先ほど自分が味わったあの苦しみと息苦しさを、ぱちゅりーは一晩中も味わわされたのだ。 そうでなくてもぱちゅりー種は元来ぜんそく持ちである。 少しのホコリや砂を呼吸が出来なくなる程、それを煙で燻し上げるなどどれほどの苦しみであろうか。 想像を絶する。 「ゆ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁ、ばぢゅりぃぃぃぃ!!くるしかったよね?ゆっくりできなかったよね?」 眼の前の最早形だけで命の無いぱちゅりーに、それでも頬をすり合わせて涙を流す。 れいむの頭にぱちゅりーと過ごした、数々の想い出が去来する。 まだ賢く無かった子供の頃に様々な事をぱちゅりーから学んだ。 群れの皆で協力して、れみりあを撃退した時に一緒に群れを指揮した事。 親友でありながらも師でもあったぱちゅりー。 まりさとの結婚で一番喜んでくれたのもぱちゅりーだった。 それらを思い起こすと、身体中の水分が涙となって流れ出していく。 それが段々と黒々しくなり、完全に餡子が流れ出しても止まる事は無かった。 そして少し前に、ぱちゅりーに会えると喜んだ自分を呪った。 そんな馬鹿な自分のせいでぱちゅりーが死んでしまった。 そう思えて仕方なかった――そして。 「ゆっぐじぃぃぃ……ごろじでやるぅぅぅぅ!!」 餡子の涙を流したその顔で、はくれいむの方へと向き直る。 その余りの迫力に、周りの取り巻きは怯えた表情を浮かべ、後ろへと思わず遠退く。 だが、肝心のはくれいむはというと、涼しげな表情でその様子を嬉しそうに眺めるばかりであった。 「ゆっぐじぃぃぃ、ゆっぐじぃぃぃぃ!!」 ずりずりと火傷で動かない身体を引き摺ってはくれいむの方へと向かう。 ゆっくりとは思えないどの行動の原動力は、凄まじい怒りに寄るものだろう。 それにハッとしたかのように、取り巻きのゆっくり達が間に割って入るがはくれいむは「ゆふふ、よいよい」とすぐさま退けさせた。 そのまま後少しで、はくれいむに喰いつける距離まで辿り着こうかという地点で、バタリとれいむは突っ伏すように顔を地面に向けて動かなくなってしまった。 「じゃ……じゃおおぉぉぉ!!」 近くで怯えながら見ていためいりんがすぐさま駆け付け状態を確かめる。 気絶しているだけで、どうやら死んではいないようだ。 だが、その顔は憤怒の表情で固まったまま動かない。 「じゃおおぉぉぉ!!じゃおぉぉぉ!!」 「なにやってるんだぜ、ゆっくりそいつにとどめをさすんだぜ!!」 取り巻きのまりさが声を張り上げる。 愛しのはくれいむを殺そうとしたそのれいむをそのままにしておくべきではないと思ったが、自分が近付いて殺す事は怖くて出来なかった。 めいりんは涙を流しながら顔を左右に振りそれを拒否する。 再びまりさが声を張り上げるがそれも拒否する。 「まりさのいうことがきけないばかめいりんなんて、ゆっくりできなくしてやるんだぜ!!」 「じゃ、じゃおおおぉぉぉん!!」 怒りのその言葉とゆっくり出来なくされると言われ、困惑するめいりん。 そんなやり取りと眺めていたはくれいむが、ゆっくりと指示を出す。 「ゆふふ、まだまだその愚か者にはゆっくりと楽しませて貰わなければならぬ」 そう言うと、周りで様子を見ていただけのゆっくり達にすぐさま治療に当たらせた。 どういう事かよく判らないといった表情のまりさも、ハッと我に返ると先ほどとは正反対に 「そのれいむをころすな」や「もしできなかったら、そいつらもゆっくりできなくするんだぜ」などと喚いている。 はくれいむはそれを暫く眺めていたが、ゆふふと笑い声をあげると踵を返して、今度こそは本当にその場を後にした。 そして更に一週間後、その洞窟の誰も知らない空洞の中を這いずるように一匹のゆっくりが進んでいた。 ゆっくりまりさである。 そのまりさはブツブツと何事か呟きながら、大人のゆっくりでは狭いその空洞の間を縫うように進み続ける。 その眼には何かしらの決意が見て取れた。 随分と進んだ後、開けた場所に出ると同時に一匹のゆっくりが目に付く。 反乱の一端を担っていてゆっくりみょんである。 見張りであろうか。 深夜のためうつらうつらと身を揺らせるそのみょんに気付かれぬよう、まりさは帽子から鋭く尖った木の枝を取り出す。 それを口に咥えると、ゆっくりとその背後へと近寄る。 すると突然、まりさの気配に気付いたのだろう。 みょんが振り向きそのまりさを確認すると、仲間を呼ぶために声を張り上げようと身体を膨らます。 その一瞬の間に、まりさはゆっくりしないで口に咥えた凶器をみょんへと突き刺す。 何が起こったのかイマイチ理解出来てないみょんの身体の中心を抉るようにそれを掻き回し素早く抜き取る。 するとそこから大量の餡子が噴出しだす。 みょんの眼は次第に生気を失い白目を剥き最後には、 「ぱ、ぱいぷ…かっとぉ……」 と呟き、その場に力無く倒れた。 まりさはそのみょんの最後を悲しそうな眼で見遣った後、帽子を被り直して先へと進み始めた。 この程度の事で感傷に浸っている場合じゃない。 そうまりさは自身に言い聞かせているようあった。 「れいむ、ゆっくりまっててね……まりさがぜったいにたすけだしてやるからね」 続く 後書き・はくれいむの喋り方はハクレイ4000年の歴史のせいでしょう。 by推進委員会の人 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/761.html
※小ネタです。 ※独自設定あり。 ※めずらしく直接虐待です。 「加熱」 必殺引篭り人 「だっ!だじゅげっっっ!ごぼぼぉぉぉ!?ぐっぐぐるじっぃぃぃぃごぽぉぉぉ!!!?」 子れいむが叫ぶ。ゴボゴボと溺れながら。 「ぼ、ぼぉだみぇっっっ!じっじぬぅぅぅ!」 浮き沈みをしながら、それでも元気よく叫ぶ。 「あ、あじゅぃぃぃごぼっっ!!ごぼごぼぉぉぉ!」 沸騰したオレンジジュースの中で、子れいむのダンスは続く。 思いつきは簡単なことで、オレンジジュース溺死をアレンジできないかな、というものだった。 虐待鬼威惨指南書『今日のゆ虐 365 日レシピ集』を見ていた時、基本ゆ虐の中に紹介されていた 溺死のバリエーション、その1つがオレンジジュース溺死。 溺死寸前でオレンジジュースにより回復させられ、長時間苦しめられると書かれていた。 それにもう一捻りを加えたい。そこで考えたのが加熱だ。 しかし素のゆっくりでは、いくらオレンジジュースとはいえすぐに皮が破けてしまうだろう。 そこでゆっくり用のグッズショップに行き、買ってきたのが耐水スプレー。 よく靴やズボン、スカートなどに吹きつけて雨を防ぐアレのゆっくりバージョン。 帰り際にとっ捕まえた子れいむにまんべんなく吹きつけて準備完了。 ぼちゃん。透明なガラス製の深なべに子れいむを投げ入れる。 「ゆ゛っ!なにしゅる…、おみじゅしゃんだぁぁぁ!とけりゅぅぅぅ! …?あめっ!これめっちゃあめっ!ぺーろぺーろ!うめっ!」 点火スイッチを押す。シュボッ! 「…ゆー?なんだきゃぽーかぽーかしちぇきちゃよ!しゅごくゆっくちできりゅよー☆ ゆーんゆーん♪ ゆっくちーのひー♪まっちゃりーのひー♪しゅっきりーのひー♪」 火力を上げる。 「…ゆっ!?にゃんだきゃあちゅくにゃってきたよ!おれんじじゅーしゅしゃん!れいみゅを ゆっくちさしぇてね!れいみゅ、あちゅいのはきりゃいだよ!ぴゅんぴゅん! …どぼじでもっどあちゅくなりゅのぉぉぉ!?あ、あじゅいぃぃぃ!」 オレンジジュースを大量投入。 「…ゆっ!あちゅくなくなっちぇきちゃよ!ようやくれいみゅのえらさがわきゃったの!? ゆっくちしにゃいではんしぇいしちぇ…ごぼぉぉぉ!? ごふっ!?お、おれんじじゅーしゅしゃっ!お、おぼりぇりゅ!ごぼぉ!??」 火力を最大に。 「ま、まちゃあちゅくごぼっごぼっ!だ、だじゅけっ…! お、おぼりぇりゅっ!ぼふっ!!」 溺れる姿をしばし堪能する。 このままだと終わりも近いので、すこし手助けをしてやる。 「頑張って飲み干せば助かるぞ?」 「!!れ、れいみゅのっごぼっ!!じゅーばーごーきゅごぼぉぉぉ!だいみゅー! はじまりゅごぼぉぉぉぉ!」 無駄な口上で死に一歩近づく。これもまたまんじゅうクォリティ。 「ごーきゅ、ごーきゅ!ごぼぉぉぉ!!!」 もちろん飲んだ程度で減るような量ではない。なべはかなり大きい。子れいむの容積 では到底収まりきらない量のオレンジジュースが煮立っているのだ。 「ごーきゅごーきゅ!どぼじでへらにゃいごぼぉぉ!?あじゅいぃぃぃ!!」 滑稽なダンスを踊りながら、子れいむは泣く。 それでもオレンジジュースの力は偉大で、子れいむを生かし続ける。 それがたとえ沸騰したオレンジジュースでも。 「おぐぢがあじゅいぃぃぃ!ごぼぉぉお!!」 所詮はまんじゅう、やけどなどするはずもない。まあオレンジジュースを飲み続ける限り、 怪我はすぐに治る。 特効薬を飲みながら死のダンスを踊り続ける。希望と絶望を伴いながら。 これはどうしてなかなか美しいじゃないか。 「ゆ゛っっ!ゆ゛っっ!ごぼゅっっ!」 30分ほど煮詰めると、いい感じに壊れてきた。フィニッシュだ。 ガラス製のふたをする。温度が一気に上がり、ゴボゴボと沸騰するオレンジジュース。 「ゆ゛っっ!ゆ゛っっ!ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ーーー!!」 完成。子れいむのオレンジジュース煮。 「さて、次の獲物をおびき寄せますか。」 なべの中身を庭の真ん中あたりに撒く。 美味しそうにゆだったまんじゅうに引き寄せられるのは、どんな野良かな。 「次は何で煮ようかな。砂糖醤油か、それともいっそ酢にするか。」 料理を考えるように、僕は次のゆ虐レシピを思い描いた。 感想はこちらまで。 http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1274853162/ 過去作品 anko1870 駆除なんて簡単だ anko1597 きっかけは小さな事 anko1526 初心者お兄さんのコンポスト anko926 鬼威惨の、目指せ金バッジ! anko755 れいぱー対策 anko711 不良品の証 anko670 エコを目指す加工所 anko658 真実を知るということ anko650 モチモチを生かして anko611 おかされいむ anko565 ゆ身売買 anko478 れいむはよげんしゃ anko334 ゆっくりできない理由 anko301 子まりさの反乱 anko265 どすすぱーくをうつよ! anko260 人間の畑だと説得してみよう anko227 陰口 anko181 効率化の道 挿絵:エアあき 挿絵:にとりあき
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1733.html
※俺設定 ※むしゃくしゃしてやった ※反省はしていない れいむの歌を聞けぇぇえ!!! とある大都市、夕暮れ時の駅前にて・・・ 「ゆっくりしていってね!!!」 「「「ゆっくちちちていっちぇにぇ!!!」」」 れいむと3匹の子れいむが駅の入り口の前で、 ゆっくりフードの空き缶を置いて、にこやかに笑っていた。 このれいむたち、風貌を見ると、 ボロボロの髪、泥に汚れた肌、ドス黒く濁った瞳、 まさに典型的、野良ゆっくりである。 恐らく、彼らの普段の日課はゴミ漁りあるのだろう。 最近、ゴミ漁りをしていると、 よく出食わした人間に殺されるゆっくりたちを見て、 効率の良い餌の取り方はないかと、考えていたのが、この親れいむである。 れいむは、昨日、衝撃が走った。 夕暮れ時の駅前で、 ボロボロの服を着て、ボロボロのギターを抱えたメガネをかけた青年が、 れいむからすれば、とてもゆっくり出来ない歌を歌っているのに、 人間から拍手された上、たくさんのお金をもらっているところを見た。 れいむ種は、比較的、ゆっくりたちの感覚では、 とてもゆっくり出来る上手い歌を歌えるという風に自他共に思われている。 当然、このれいむも例に漏れず、自分はあの青年よりも、 もっと上手くゆっくり出来る歌を歌えるという自負があった。 それにれいむは、あのみすぼらしい格好の青年より、可愛いし、 何より、可愛い3匹のおちびちゃんたちがいる。 これならば、あのゆっくり出来ない青年のファンを横取り間違いなしだと、 値踏みして、ゴミ置き場からゆっくりフードの空き缶を拾い、 ここにやってきたのだ。 さらに、れいむは、餌にありつけるだけでなく、 人間から自分たちが歌うことによって、たくさんの拍手に囲まれて、 尊敬される姿を思い浮かべると、気分がよくなってきた。 あまあまをたくさんもらえる上に、尊敬もされる。 れいむは、今、自分がとてつもなく崇高な存在に感じたのであった。 「ゆっ!!!これからかわいいれいむたちがおうたをうたうよ!!!」 「にんげんしゃんはゆっくちかんしゃしちぇにぇ!!!」 「おれいはあみゃあみゃしゃんかおきゃねしゃんでいいにょ!!!」 「このきゃんきゃんのなきゃにたくしゃんいれちぇにぇ!!!」 どうやら、子供たちも、同じ考えであるようだ。 親も親なら、子も子ということか。 「ゆふん!!!かわいいれいむたちのびごえによってもいいのよ!!!」 「「「ゆっ!!きゃわいくちぇごみぇんにぇ!!!」」」 まるで人間を見下し方のような表情のれいむたち。 「それではゆっくりうたうよ!!!にんげんさん!!!かんどうのあまりないちゃだめだよ!!!」 「♪ゆゆゆゆ~ゆっくりしていってね~」 「「「♪ゆっくちちていっちぇにぇ~」」」 れいむたちの歌声は、それはひどかった。 雑音、いや、雑音に失礼だ。 汚い音、いや、音に失礼だ。 振動する空気が可哀相だ。 空気に含まれるすべての成分は、耐え難い屈辱により、 振動して、音を発しているということだ。 この世に神々が物質を作り出したというのなら、 どうして空気にこれだけの苦行を与えるのか・・・ そう思えるほどのひどさであった。 人通りの多い駅前で、 みな一様に急いでいるため、そんなれいむたちの歌声を、 当然ながら、一切聞こうとしない。 それどころか、不快に思い、顔をしかめて、通っていく者たちが、ほとんどであった。 みな、汚物を見たくないかのように、 わざと視線を逸らして、通り過ぎていく。 もちろん、れいむたちの前に置いているゆっくりフードの空き缶に、 何かを入れる聴覚障害を持った者など皆無である。 「♪ゆゆゆのゆ~ゆっくりして」 カランカランカラン・・・ 駆け足気味のサラリーマンが、慌てていたあまり、 れいむたちの前に置いてあったゆっくりフードの空き缶を蹴り飛ばしていた。 「ゆ~!!!どぼぢでぞんなごどずるのおぉおぉ!!!」 れいむは顔を真っ赤にしてサラリーマンの方に向かい、頬をプクーと膨らませた。 が、サラリーマンは、れいむの方を振り返りもせず、気づいた時には、人ゴミの中に消えていった。 「れいむたちのおうたがうまいからってしっとしないでね!!!」 「ゆっくちできにゃいにんげんしゃんはゆっくちちね!!!」 「にんげんしゃんにはれいみゅたちのおうちゃのよさをりきゃいできにゃいんだにぇ!!!」 「お~あわりぇあわりゃ!!!」 もう、すでにそこにいるはずもないサラリーマンの悪口を言い続けるれいむたち。 ペッ!!! 髪を金髪に染めた不良少年が、れいむたちに向けて、唾を吐きかけた。 彼からすれば、路傍に落ちているゴミクズに唾を吐いただけであった。 「ゆべぇええ!!!きたないぃいぃ!!!!」 「どぼぢでしょんにゃこちょしゅるのぉぉぉお!!!」 「れいみゅたちはゆっくちちてるにょにぃいぃ!!!」 「ゆっくちあやまっちぇにぇ!!!」 今度は、不良少年に向けて、文句を言い出した。 が、当然、不良少年も、れいむたちの声が聞こえてないかのように、 通り過ぎていった。 「ゆぅうぅうぅうぅう!!!!どぼぢでだれもきいてくれないのぉぉぉおおぉ!!!」 「ゆぅうぅう!!!きいちぇにゃくちぇもいいきゃらあみゃあみゃしゃんをよこちぇ!!!」 「れいみゅたちはきのうきゃらにゃにもたべちぇないんだにょ!!!きゃわいしょうでしょ!!!」 「れいみゅたちをゆっくちしゃせないにんげんしゃんはゆっくちちね!!!」 歌を歌うという趣旨から、いつの間にか、物乞いに代わっていたれいむたち。 『なあ、お前たち・・・」 「「「「ゆっ!?」」」」 昨日のボロボロの服を着た青年であった。 汚らしい格好とは裏腹に、メガネを通して澄んだ瞳がキラキラと輝き、 爽やかな表情であった。 『どうして・・・お前たちは歌を歌うんだい?』 「ゆふん!!!ばかなおにいさんにはわからないんだね!!!」 「あみゃあみゃしゃんをたべりゅためだにょ!!!」 「しょんにゃこちょもわきゃらにゃいにゃんちぇ!!!ばきゃなにょ!!!」 「おにいしゃんでいいきゃら、あみゃあみゃしゃんをもっちぇきょい!!!」 青年は、ふぅと溜息を付き、 『・・・だから誰もお前らの歌なんか聞いてくれないんだぜ・・・』 と、れいむたちを見つめた。 「なにをいってるの!!!れいむたちはゆっくりしたいんだよ!!! ゆっくりりかいしてね!!!」 青年を睨みつけるれいむ。 『ゆっくりしたいだけなら、歌うだけでもゆっくり出来るぜ?』 青年は再びれいむに問いかけた。 「れいむたちはおなかいっぱいあまあまさんをたべたいんだよ!!! にんげんさんからはくしゅをいっぱいもらいたいんだよ!!!」 『そんなモノ、ゆっくりじゃないぜ!!!』 青年はれいむに向かって、叫んだ。 『オレがホントのゆっくりを見せてやる!!!』 青年は道行く人々の足を止めるほど大きな声を上げた。 すると、青年は、近くにあったベンチに立って、 『オレの歌を聞けぇぇぇぇっぇえええぇええええ!!!!!』 数分後 青年の周りには、大勢の人が集まっていた。 みな、彼の歌を聞き、みな口ずさみ始めた。 「ゆぅうぅううぅ!!!!!どぼぢでれいむたちのうたはきいてくれないのぉおぉおおぉお!!!」 れいむたちは、顔をはち切れんばかり膨らまして、怒りを露にしている。 『いました!!!あそこです!!!あの目障りなヤツは!!!』 突然、ある男性が駅員を連れてきた。 れいむたちは、あの男性が、青年のことを目障りなヤツと指差していると思い、 「おじさん!!!はやくあのゆっくりできないおにいさんをどっかにおいはらってね!!!」 「れいみゅたちのおうちゃがうちゃえにゃいにょ!!!」 「しょんにゃこちょよりはやきゅあみゃあみゃしゃんをもっちぇこい!!!」 「どぼぢでだれもれいみゅたちのおうちゃをきこうとしにゃいのぉぉお!!!」 ピョンピョンと飛び跳ねだした。 『あ~すみませんねぇ~』 駅員は、手にしていた籠にれいむたちを入れ始めた。 「ゆっ!?なにをするのぉぉぉおぉお!!!!」 「「「ゆぅ~おしょらをとんじぇるみちゃいぃい!!!」」」 『じゃあ、これから加工所に送っておきますんで・・・』 と駅員は、男性におじぎした。 「ゆっ!?かこうじょ!?」 「「「かきょうじょはゆっくちできにゃいぃいいぃいい!!!」」」 籠の中のれいむたちは物凄い勢いで泣き始めた。 「おじさん!!!あのおにいさんがめざわりだよ!!! はやくれいむたちをここからだしてね!!!!」 と、駅員に懇願するれいむ。 『まあ・・・あれもホントは規則違反なんだが・・・ 何だかなぁ・・・あれは邪魔しちゃいけない気がするんだよ・・・ あそこまで上手いとなぁ・・・』 と、苦笑いの駅員。 「ゆううぅうぅ!!!どぼぢでぞんなごどいうのぉおぉ!!! でいぶだぢばぁぁああ!!!ゆっぐりじでるんだよぉおぉ!!!! あんなおにいざんなんがよりぃいいい!!!! もっどおうだがうまいんだよぉおぉおぉおぉおおおおぉおお!!!!」 半狂乱で叫び続けるれいむ。 『お前らは汚物だから・・・』 吐き捨てるかのように言い放った駅員。 れいむたちは、ノリノリで歌い続ける青年を籠の中で、恨めしそうに見続けていた。 れいむたちの方が上手いのに・・・ れいむたちの方がゆっくりしているのに・・・ どうして・・・ そんな風にれいむたちは、悔し涙を流しながら、加工所行きの収集車に乗せられて、 青年のゆっくり出来ない歌をいつまでも聞いていた。 終わり あとがき 作者の趣味に走りました。 批判は覚悟の上です。 他の作品 ふたば系ゆっくりいじめ 149 鞭打 ふたば系ゆっくりいじめ 155 糞饅頭 ふたば系ゆっくりいじめ 159 ユグルイ その1 ふたば系ゆっくりいじめ 162 ユグルイ その2 ふたば系ゆっくりいじめ 168 ユグルイ その3 ふたば系ゆっくりいじめ 169 ゲス愛で派 ふたば系ゆっくりいじめ 173 ユグルイ その4 ふたば系ゆっくりいじめ 187 頭でなく心に訴える ふたば系ゆっくりいじめ 188 ユグルイ その5 ふたば系ゆっくりいじめ 192 長寿と繁栄を・・・前編 ふたば系ゆっくりいじめ 200 長寿と繁栄を・・・後編 ふたば系ゆっくりいじめ 221 FFR ふたば系ゆっくりいじめ 230 本気で勝てると思ってたのか? ふたば系ゆっくりいじめ 231 長寿と繁栄・・・完結編 ふたば系ゆっくりいじめ 236 ユグルイ その6 ふたば系ゆっくりいじめ 243 死すべき生物 ふたば系ゆっくりいじめ 250 ゆっくりSSをれいむに読ませてみた ふたば系ゆっくりいじめ 263 飾りの価値は 起 ふたば系ゆっくりいじめ 265 飾りの価値は 承 ふたば系ゆっくりいじめ 283 飾りの価値は 転 ふたば系ゆっくりいじめ 286 飾りの価値は 始 ふたば系ゆっくりいじめ 292 時をかけるまりさ 前編 ふたば系ゆっくりいじめ 299 時をかけるまりさ 中編 ふたば系ゆっくりいじめ 304 時をかけるまりさ 後編 ふたば系ゆっくりいじめ 309 時をかけるまりさ 完結編 ふたば系ゆっくりいじめ 319 ありす 都会に行く
https://w.atwiki.jp/monsterhunter3tri/pages/89.html
牙むく群れの長を狩れ! 場所 孤島 ボス ドスジャギィ 主なモンスター ジャギィ ジャギィノス クエスト条件 メインクエスト ドスジャギィの討伐 サブクエスト ドスジャギィの頭の部位破壊
https://w.atwiki.jp/inmasaitan/pages/33.html
概要 カード名 コスト/ATK/Life 山羊の群れ 1/0/1 タイプ/属性 汎用能力 守護者/自然/獣 なし 能力1 カードID 場に出たとき、『山羊』を2体自陣に生成する。 GD010
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/45.html
225 淫獣の群れ sage 2007/10/09(火) 04 02 48 ID vvg88tHe 寿司が食いたい。 綾瀬喜十郎は、風呂場の、もうもうたる湯気の中で、何故か唐突にそう思った。 回る寿司でもいい。 回らない寿司なら、なおいい。 かねは、ある。 先週、こっそり馬で当てた二万が、まだそのまま残っている。 この金の事を妹たちに知らせる気は当然、無い。奴らがその金の存在を知れば、たちまちの内に没収されてしまうからだ。 “うちの家計はいま、苦しいんですのよっ” の一言で。 幸い、晩飯もまだだ。腹も減っている。 そう思ったら、矢も盾もたまらず食べたくなってきた。 ――はまち、うなぎ、たい、甘えび、納豆巻き。赤だしも飲みてえなぁ……。 喜十郎は、洗面器で湯舟から、その熱い湯を自分の顎にぶちまけた。 泡はもう残っていない。 ヒゲの剃り跡がちりちりするが、彼は気にせず、湯船に身を沈めた。 熱めに沸かし直した湯が心地いい。 髪は洗った。 身体も洗った。 ヒゲも剃った。 後は身体をあっためて、あがるだけだ。 寿司食いてえなぁ 彼は、心中に再び、そう呟いた。 しかし、彼は知っている。 結局、自分は寿司を食べに行く事は出来ないだろう、という事を。 この我が家に於いて、自分に、そんな自由は与えられていないという事を。 すなわち――。 「――お兄様、お背中を流させて頂きます」 扉がからりと開くと、胸元をかろうじてバスタオルで隠した、全裸同然の少女たちが風呂場に入って来た。 一人ではない。 五人だ。 年齢はまちまちだが、そのいずれもが美しい。もしくは美しく育つであろう、そう思わせる美少女たちであった。 彼の――喜十郎の妹たちであった。 226 淫獣の群れ sage 2007/10/09(火) 04 04 26 ID vvg88tHe 無論、彼は、この風呂場への闖入に、何の許可も与えていない。 しかし、この少女たちは、なんのためらいも無く、まるで当然の義務を果たす者のように、兄の眼前に肌を晒し、兄が浸かる湯船から湯をすくい、身体に浴びる。 それでも、少女たちの一人は、兄の一目瞭然な不機嫌さに、やや怯えた様子を見せる。 「あの、お兄ちゃま、やっぱりその、勝手に入ってきて……怒ってる?」 喜十郎は、半ば諦めたように苦笑いを浮かべ、泣きそうになっている妹の一人に応えてやった。 「……とにかく、取りあえず湯に入れ。風邪を引く」 「あっ、はいっ!」 彼女たちの中に一種、ほっとした空気が流れたようだ。 基本的には、いかに傍若無人な彼女たちとはいえ、妹たちは妹たちで、やはり兄の機嫌は気にしていたのだろう。 「それでは失礼いたします」 そのまま彼女たちは、無駄に広い湯舟に、次々にその肢体を沈め、年頃の少女らしい雑談を交わし始めた。 喜十郎は、そんな妹たちの様子を見て再び溜め息をついた。 「――桜(さくら)、ちょっといいか」 「はい?」 彼女たちの中でも一際長身の少女が、その声に振り向く。 ツインテール、というのだろうか。腰まで伸びた栗色の長髪を左右に分け、両方の肩口で結わえ、垂らしている。そんな子供っぽい髪型と、大人びた相貌が生み出すアンバランスさが、彼女に絶大な魅力を与える効果をなしていた。 その頬が淡く桃色に染まっているのは、決して熱めの湯のせいだけではない。 喜十郎の声音は、そんな彼女の期待には、まず添わないであろう険しさを含んだものであったが、――桜と呼ばれた彼女の表情には、それを残念がる気配は微塵も無く、ただ、彼に声をかけられた、という事実が嬉しくてたまらないようであった。 「昨日言ったはずだな。今後の俺の入浴には、介添えは一切無用だ、と」 「ええ」 「なら、何故ここにいる」 湯舟の隅で、自らの背を壁にして他の妹たちに聞こえないように一応、気を遣う。 この質問を、何故この場にいる妹たち全員ではなく、桜個人に問うのかと言えば、この桜こそが、綾瀬家の六人姉妹の長姉であり、どんな時でも常に彼女たちの音頭を取る役割を担っているからだ。 「本当に分からないの? ――全く、お兄様ったら……」 227 淫獣の群れ sage 2007/10/09(火) 04 05 23 ID vvg88tHe まただ。 桜から“お兄様”と呼ばれるたびに、喜十郎は、何とも言えないむず痒さのような感覚を背中に感じる。 実際、喜十郎と桜は、半年しか誕生日が離れておらず、学校でも共に同じ教室で、机を並べて授業を受けている。だから、そんな桜が自分の事を“兄”呼ばわりするのは、喜十郎にとって、かなり奇異に感じられる行為だった。 その感覚は、無論、今でも変わっていない。 湯気の中でうつむいたその美貌に拡がったのは、嘲笑、とでも言うべき表情だった。 「簡単よ、お兄様に理解してもらうためよ」 「理解?」 桜は自分の唇を、れろり、と舐めた。 その真っ赤な舌と、唇の端からこぼれ落ちる一筋の唾液が、たまらなくいやらしい。 もう、さっきまでのひそひそ声ではない、風呂場にいる全員に聞かせる声だった。 いまの桜は、まぎれも無い、ここにいる妹たち全員の利益代表として、兄と交渉しようとしているようだった。 「お兄様は、これでも由緒正しき綾瀬家の時期当主。常に身だしなみには気を遣ってくれないと、私たちの恥にもなるわ」 音すら立てずに桜が湯舟から立ち上がる。 その背後には、さっきまで雑談していたはずの四人の妹たちまでが、無言でこっちを見ていた。桜と同じく、年齢に似合わぬ潤んだ光をその目に宿らせて。 「だから私たちが、お兄様を綺麗にするの。私たちに出来る範囲でね」 喜十郎の両頬に手を添え、熱のこもった目線で彼を見下ろし、桜は兄に訴える。 「すまないが、俺はそこまでガキってわけじゃない。自分の身体くらい自分で洗える」 喜十郎は、何かから逃れるように桜の手を払うと、湯舟から立ち上がった。 「今日だってもう、洗うべきところは洗い終わったよ。当然、背中もな」 捨て台詞のように言い放つと、振り向きもせずに彼は湯舟から出た。――はずだった。 228 淫獣の群れ sage 2007/10/09(火) 04 07 49 ID vvg88tHe 湯舟の敷居をまたいだ瞬間、喜十郎はひっくり返って湯舟に落ちた。 彼の重心が片足に移った瞬間、桜が喜十郎の手首を引っ張ったのだ。 「あらあら」 兄を湯舟に沈めてなお、涼しい顔で桜は妹たちを振り返る。 「私には洗い終わってるようには見えないのだけれども……みんな、どう思う?」 「そうですわねぇ。確かに、兄君さまのお背中は、まだまだ垢が残っておられるようにお見受け致しますわ」 ポニーテールにくくってなお、桜と同じく、ほとんど腰まで隠れる長髪の少女――春菜(はるな)が、長姉の問いに歌うように答える。 「うん。ぴっかぴかに洗えば、お兄ちゃまはもっともっと綺麗になるって詩穂も思うなっ」 肩のあたりでこざっぱりと切り揃えられたショートカットの少女――詩穂が、ポニーテールの姉に調子を合わせる。 「くしししし、うん。ヒナもヒナもそう思うっ」 五人の妹たちの中で一番幼い少女、いや幼女か?――比奈(ひな)までもが、きらきらと輝く瞳を兄に向けていた。さっきまで遊んでいた船の玩具には、もはや一片の興味も残っていないようだ。 「大丈夫ですか兄上様。お湯は飲まれてはおられませんか?」 桜や春菜同様、腰まで伸びた長髪の少女――真理(まり)が、喜十郎に寄り添い、気遣う。もっとも、彼女の髪型はポニーテールではなく、その圧倒的な量の黒髪を三つ編みにまとめている。 「ああ、ありがとう。真理」 喜十郎にとって姉妹の中では、この真理こそが一番気の置けない存在であった。 「でも――」 ただし、 「兄上様のお体で洗い残しがあるのは、どうやらお背中だけでは無さそうですわ」 「真理……!」 一度スイッチが入ってしまえば、この真理という少女は、姉妹の中で一番の残忍性を発揮する、サディスティンに変貌するという欠点があったが……。 229 淫獣の群れ sage 2007/10/09(火) 04 09 17 ID vvg88tHe 「五対一。民主主義の勝利ね」 いつの間にか彼の背後に忍び寄った桜に反応して、思わず立ち上がった喜十郎の背を、春菜が羽交い絞めにする。 「くっ、放せ春菜っ!」 「みなさん、用意はよろしいですかっ?」 「いつでもいいわよっ」 妹たち全員の位置を確認するように、桜が素早く視線を走らせ、そのまま叫ぶ。 そして、その声に呼応するように少女たちが各々、配置につく。 まるで手馴れた作業をするように、その動きには迷いが無い。 詩穂は喜十郎の右手を。 真理は喜十郎の左手を。 比奈は喜十郎の股間を。 春菜は喜十郎の背中を。 そして桜は、そのまま喜十郎の正面に自らの身体を預け、その豊満な乳房を押し付ける。 いかに男女に体力差があったとしても、五対一では所詮、勝負にはならない。 喜十郎は、全身を妹たちの肉の檻に封じられ、微動だに出来なかった。 「放せっ! 放せっ! 放せぇぇっ!!」 「いやですわ」 かぷり。 「――っ!!」 春菜が、背後から彼の耳朶を甘噛みする。あたかも捕らえた獲物の悲鳴を塞ぐかのように。さらに次の瞬間、桜が、だらしなく開けた喜十郎の唇を文字通り塞いでしまう。無論、花びらのような自らの唇で、である。 「ああ~~~っ、桜ちゃんずるぅいっっ! 詩穂もお兄ちゃまとキスしたいぃぃ~~~」 「ふふふ……詩穂ちゃんもあまり、がっつかないで下さいまし。兄上様のお体がどこでも美味なのは、あなたもご存知でしょう?」 そう言うと、真理は兄の左乳首に舌を這わせる。 「――っっっ!!」 もとより口を塞がれた兄の悲鳴は、真理のいやらしい囁きと桜のキス、さらには彼の耳朶にしゃぶりつく春菜の口舌音によって、簡単にかき消されてしまう。 「んふふふ……ほんと、美味しゅうございます、兄上様……」 「ああっ! じゃあ、じゃあ、詩穂もぉ!」 その上で、今度は詩穂の舌が、彼の右乳首に襲い掛かる。 「んぐっ! ふぐっ! んんんんっ!!」 230 淫獣の群れ sage 2007/10/09(火) 04 11 17 ID vvg88tHe 二つの乳首と耳朶、さらに舌をしゃぶり尽くす情熱的な接吻。 妹たちが風呂場に闖入してきた時点で、例えこうなる事は予想していたとしても、やはり喜十郎の陽根は、硬く膨れ上がってしまった。――最も幼い末の妹、比奈の眼前で。 「くししし。それじゃあ、おにいたま、一番気持ちのいいところ、ヒナが責めてあげるね」 何度、快楽の中に身を浸そうとも、この瞬間だけは――この屈辱だけは慣れる事が出来ない。少女どころか幼女と呼ぶに相応しい末の妹に、自分のペニスを弄ばれる、この瞬間だけは。 いや、比奈だけではない。 この少女たちは、自分を責める上で、まだ全然、本気になっていないのだ。 何度も何度も彼女たちに、この身を嬲りまわされていた喜十郎には分かる。 その証拠に――。 「ねえ桜さん、今日の“ノルマ”はどのくらいになさいます?」 耳朶から口を放した春菜の言葉に、桜も応えるように兄の舌を解放した。 「そうねえ、……二時間ってところかしら」 にっ、にじかんっ!? 喜十郎は、真っ青になってふるふる、ふるふると首を振る。 そんな彼を見て、桜は慈しむような、とびっきりの笑顔を浮かべる。 そして、自由になった喜十郎の唇に、今度は右側から詩穂が跳びつき、深く己の舌を絡ませる。 ノルマとは、即ち妹たちが兄を責める時間的・回数的条件である。 六人の妹たちが常時身辺に付きまとう彼にとって、時間・回数に制限を定めない性交渉は、彼の日常生活に支障をきたす可能性があり、それゆえに彼女たちは“ノルマ”という形で、互いに歯止めを掛け合っていた。 しかし、やがて“ノルマ”は変質し、いまや妹たちが集団で兄を弄ぶ際の、単なる指針と化してしまっていた。 「二時間は長いですわ、桜ちゃん。せめて一時間で切り上げないと、折角の深雪(みゆき)ちゃんのお料理が冷めてしまいますわ」 「あっ、それ確かにまずいよぉ。深雪ちゃんって普段やさしいけど、怒ったらすっごく怖いんだよぉ。ヒナ、一度怒られたことあったもん」 231 淫獣の群れ sage 2007/10/09(火) 04 12 15 ID vvg88tHe 深雪とは、詩穂の姉にして真理の妹。つまり、この場にいない六人目の妹のことである。 現在、彼女は厨房で家族全員分の夕食を調理している最中であり、十代前半にして、己の料理の味が落ちる行為を何よりも嫌う、こだわりの料理人であった。 もっともそれは、喜十郎に関する好意の量が、他の姉妹に比較して少ないという意味では決してない。 彼の身体を愛撫するのと同次元で、彼に食べさせる愛情料理に精魂を傾ける、というだけの話であり、要は他の姉妹たちと、その人間的本質は何ら変わらない少女なのだ。 「では桜さん、今回の“ノルマ”は一時間ということで宜しゅうございますか?」 「……仕方ないわねえ。不本意だけど今日のところはこれで勘弁してあげる」 「良かったですわねえ兄君さま。桜さんの優しさに、きちんと礼を言わねばなりませんよ」 そう言いながら春菜の指が、背後から喜十郎の肛門に、ずぶりと侵入する。 「――ぃぃぃぃっっ!!」 思わず詩穂から、口をもぎ離して悲鳴をあげる喜十郎。 「ああっ! お兄ちゃまったら、ひどいなぁ、もう!」 温和な詩穂にしてもムッとしたのか、右乳首に爪を立てる。 「そんなひどいお兄ちゃまには、お仕置きだよっ」 「ぁぁぁっ!! いたいいたい詩穂ぉっ!!」 「痛いの? 痛いのはどこなの、お兄ちゃまっ?」 「むねがっ、むねがいたいよぉっ!」 「胸じゃないでしょっ!? なんで教えた通りに言えないの、お兄ちゃまっ!!」 詩穂が、乳首もちぎれよと言わんばかりに、さらに爪に力を込める。 「あああああおっぱいれすっ!! いたいのはおっぱいれすぅっ!!」 「あら詩穂ちゃん、もう兄上様にお仕置きするのですか?」 半分うっとりしながら彼の左乳首を舐めていた真理も、 「仕方ないですわねえ、もう少し兄君さまで楽しみたかったんですけど……」 彼の肛門をほじくり返しながら、背骨に舌を這わせていた春菜も、 「ま、いいじゃないの。これはこれで楽しいんだから。ね、お兄様?」 詩穂の唇が離れた後の、喜十郎の右乳首を責めていた桜も、 「くしししし、わるく思わないでね、おにいたま。ヒナはただ、くーきを読んだだけなんだからね」 亀頭をちろちろと舐めていた比奈も、 一斉に、喜十郎の身体に歯と爪を立て始めた。 「~~~~~~~~~っっっ!!!!」
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/5251.html
乞食れいむのおうた 作者:白兎 ※虐待成分少なめ。 ※独自設定。 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 ゆっくり特有のリズムを奏でながら、新聞紙の上でおうたを歌うれいむ。 彼女は、この街に住む乞食ゆっくりでした。 乞食ゆっくり。 もしかすると、皆さんは初めてお聞きになったかもしれません。 だって、この街でしか使われていない言葉ですから。 「おにいさん、こじきってなんなのぜ?」 それは、とある銀バッヂまりさの質問から始まりました。 飼い主の横でテレビを見ていたまりさが、お兄さんに、いきなりそんな質問をしたのです。 「ん?どこでそんな言葉覚えたんだ?」 「きょう、おさんぽのとちゅうで、ちいさなにんげんさんたちがいってたのぜ。」 やれやれ、とお兄さんは思いました。 あまり良くない言葉を覚えて欲しくなかったのです。 けれども、これも社会勉強と、まりさにその言葉の意味を教えることにしました。 「んー、なんて言えばいいのかな……。」 お兄さんは、知識の少ないゆっくりに、何とか説明を試みます。 「乞食って言うのはね、街中で物乞いをする人のことだよ。」 「ものごいってなんなのぜ?」 「道ばたで、人にお金をもらったりすること。」 「なんでなのぜ?にんげんさんは、かいしゃからおきゅうりょうをもらうのぜ?」 「そういう人は、仕事が無かったり、自分の家が無かったりするからね。」 まりさは、お兄さんの説明にしばらく体を捻っていましたが、 ふと全ての謎が解けたかのように、ぴんと背筋を伸ばして言いました。 「ゆん!ゆっくりりかいしたのぜ!こじきはのらのにんげんさんなのぜ!」 このまりさ、お兄さんの説明を少し勘違いしてしまったようです。 けれども、お兄さんも面倒くさかったので、あえて訂正はしませんでした。 翌日、銀まりさは、お友達のゆっくりに、この話を伝えました。 みんな、近くの家で飼われている高級なゆっくりばかりです。 「むきゅ。ぱちゅも、えきまえでみたことあるのだわ。」 「のらのにんげんさんだねー。わかるよー。」 「それじゃあ、のらのゆっくりも、こじきなのかしら?」 「きっとそうだみょん!」 野良の人間が乞食なら、野良のゆっくりも乞食だろう。 彼らは、そう結論付けました。 そして、街中で野良を見かける度に、彼らを乞食と呼ぶようになったのです。 「あんなところにこじきがいるのぜ!きたないのぜ!」 「こじきはとかいはじゃないわ!ありすのそばにこないでね!」 この2匹、別にゲスではありません。 ペットショップで、店員さんから、野良は汚くてゆっくりできないと教えられ、 それを忠実に守っているだけなのです。 けれども、この呼び名を広めたのは、当の飼いゆっくりたちではありませんでした。 それを横で聞いていた、地元の小学生です。 小学生というものは、相手を馬鹿にする言葉が大好きなのです。 あっと言う間に、地元の小学校でこの呼び名が広まりました。 そして、今度は、小学生の言葉遣いが、他の飼いゆっくりに影響を与えます。 「おーい、こっちに乞食がいるぜ!」 「ゆゆ!こじきがいるよ!」 「おおこじきこじき。」 こうして、分別のある大人を除き、みんなが野良ゆっくりを乞食と呼ぶようになりました。 野良ゆっくりたちは、それが悪口だと分かると、とても怒りました。 「れいむはこじきじゃないよ!れいむはれいむだよ!」 「まりさはりっぱなのらゆっくりだよ!こじきじゃないよ!」 ですが、毎日のように乞食乞食と言われ続けると、 なんだか本当に乞食のような気がしてしまうものです。 1年も経った頃には、野良ゆっくりも、自分たちのことを乞食と呼ぶようになりました。 ですから、この街では、野良ゆっくりはみんな、乞食ゆっくりと呼ばれているのです。 ところで、名は体を表す、という諺があります。 乞食ゆっくりたちは、だんだん本物の乞食と一緒の生活をするようになりました。 街中で、物乞いをするようになったのです。 もちろん、ただ座っているだけでは、何も貰えません。 だから、乞食ゆっくりたちは、芸を披露することにしました。 あるものはダンスを踊り、あるものはおうたを歌います。 こうして、乞食ゆっくりたちは、街中の風景にすっかり溶け込んでしまいました。 「ゆゆ~♪ゆ~ゆ~♪ゆ~♪」 このれいむも、昔は街の近くにある小さな森で暮らしていましたが、 土地開発で巣を追われ、こうして乞食になったのです。 都会での生活に慣れていないれいむには、苦労苦労の連続でしたが、 仲間の手助けにより、ここまでやってこれました。 「ゆ~♪ゆ~♪ゆゆ~♪」 「こじきのれいみゅにおきゃねをめぐんでくだちゃい!」 おうたを歌うれいむの横で、通行人に笑顔を振りまいているのは、 森を追われるときに助けた妹れいむです。 両親と他の姉妹は、おうちを潰そうとする巨大なすぃーに立ち向かい、 そして、ぺっちゃんこにされてしまいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 「おねがいしましゅ!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!」 森にいた頃は、うたひめと呼ばれ、みんながれいむのおうたを褒めてくれました。 でも、この街では、誰もれいむのおうたなど聴いてくれません。 みんな、顔色ひとつ変えずに、れいむたちの前を通り過ぎて行くだけです。 だけど、おうたを歌う以外に何もできないれいむは、おうたを歌い続けるしかありません。 「ゆゆ~ん♪ゆ~ゆゆ~♪」 おうたを歌っているとき、れいむはいつも、森での暮らしを思い浮かべます。 とっても優しいお父さんとお母さん、可愛らしい妹たち、 そして、みんなと遊んだゆっくりプレイス。 れいむは、ゆっくりとした記憶に浸りながら、今日もおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、部長の指示が悪いんだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、2匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 男は、ほんの一瞬、れいむの顔に目をやりました。 森の暮らしを思い出して歌うれいむの表情は、幸せそのものです。 男は、そのまま通り過ぎようとしましたが、何を思ったのか、 ポケットに手を入れると、きらきら光るものを、空き缶に投げ入れました。 チャリーン 金属のぶつかる音がします。 「ありがとうございます。」 れいむは、おうたを中断し、もみあげで三つ指をついて、頭を下げました。 「ありがちょうごじゃいましゅ!」 妹れいむは、ぴょんぴょん跳ねて、サラリーマンにお礼のダンスを披露します。 サラリーマンは、そんな2匹を無視すると、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなったところで、ようやく顔を上げます。 「きょうはおかねもらえたね。くらいからもうおうちにかえろうね。」 「ゆっくち~♪」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、お金ではありませんでした。 ただのビール瓶の蓋でした。 男は、嫌がらせをするために、わざとそれを入れたのです。 「ごめんね……。これおかねじゃないよ……。ごめんね……。」 「ゆぅ……。」 れいむは、白玉の目からすっと涙を流し、妹に何度も何度も謝ります。 やっと貰えたと思ったお金。 これなら、何も貰えない方が、どれほど良かったことでしょう。 「おにぇしゃんなかにゃいでにぇ。れいみゅゆっきゅりがまんしゅりゅよ。」 心配した妹が、れいむの頬にすーりすーりして来ます。 「おにぇしゃんしゅーりしゅーり。なきゃないでにぇ。」 そんな健気な妹を見ると、れいむも泣いてはいられません。 笑顔を取戻し、元気よく妹にすーりすーりし返してあげます。 「さあゆっくりおうちにかえろうね!」 「ゆっくち~♪」 れいむたちは、もみあげともみあげをしっかりと繋ぎ合わせ、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 「ゆゆん!このあんぱんさんはさんえんだよ!とってもやすいよ!」 「ちぇんかうよー!きょうはごえんだまもらったよー!」 「まりさもあまあまさんいっぱいあつめたよ!ゆっくりかいものしていってね!」 「ちーんぽ!」 ここは乞食谷。 乞食ゆっくりたちが集う、街の下宿所です。 もちろん、町中に谷などありません。 誰も住んでいないビルに囲まれた空き地が、谷底に似ているので、そう呼ばれているだけです。 乞食たちは、この谷の真ん中にあるドラム缶の前で、毎晩市場を開きます。 食べ物や段ボールなど、生活に必要なものを集めたゆっくりが、 人間からお金をもらったゆっくりに、それを売っているのです。 今日も市場は大盛況。 ゆっくりたちの賑やかな声が、あちこちから聞こえてきます。 「ゆぅ……。あんぱんしゃん……。」 そんな市場を遠くから眺めているのは、さきほどのれいむ姉妹です。 お金も物ももらえなかった2匹は、何にも交換するものがありません。 ただただ、他のゆっくりたちの買い物を見ている以外、することがないのです。 「れいみゅもあんぱんしゃんたべちゃいよ……。」 妹れいむが、物欲しそうに涎を垂らしながら、ちぇんの買った餡パンを見つめています。 「ごめんね。あしたはおかねをもらってあんぱんさんたべようね。」 「ゆぅ……。」 そんな会話をしていると、ふと市場の方から、1匹のゆっくりが跳ねて来ます。 それは、よく見知った帽子の子、ゆっくりまりさでした。 「ゆっくりしていってね!」 まりさは、笑顔でれいむに挨拶します。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇいっちぇね!」 れいむとその妹も、先程までの空腹を忘れて、元気よく挨拶を返します。 れいむは、このまりさと大の仲良しでした。 この乞食谷に案内してくれたのも、街中でたまたま出会ったこのまりさだったのです。 まりさは、人間にもそうと分かるくらいの美ゆっくりでしたが、野良は野良。 お帽子にはあちこちに穴が空き、お肌も都会の空気ですっかり汚れてしまっています。 そんなまりさは、とびっきりの笑顔で、れいむに話しかけます。 「きょうもいっぱいおかねもらえたよ!」 嘘ではありません。 このまりさは、1日になんと15円も稼ぐのです。 普通は5円も集まれば御の字なのですから、どれほど凄いかが分かります。 それもそのはず、このまりさは、芸の名人でした。 ぴょんと30センチも飛び跳ねてトンボ返りをしたり、 口に棒をくわえて、コーンの間に張った綱を渡ったりできるのです。 だから、人間さんたちの間でも、まりさはとっても有名でした。 「れいむはおかいものしないの?」 まりさは、れいむにそっと尋ねました。 れいむは何も答えませんでしたが、まりさには分かっています。 だって、れいむがお買い物をすることなど、滅多にないのですから。 れいむは、それくらい物乞いが下手なのです。 けれども、嫌みで尋ねたわけではありません。 まりさは、いつもこうやって、れいむにプレゼントする機会を作っているのです。 「れいむにこれあげるよ!」 まりさは、帽子の中から、野菜屑を取り出して、れいむに差し出します。 それは、八百屋さんの前で芸を披露したときに、店のおじさんから貰ったものでした。 このおじさん、普段はじゃがいもの皮しかくれないのですが、 その日はまりさの宙返りがあまりにも見事だったので、キャベツの葉っぱをくれました。 「ゆゆん!まりさありがとう!」 れいむは、うれし涙を流しながら、キャベツの葉っぱを受け取ります。 それを見た妹のれいむは、今にも端っこに噛み付いてしまいそうでしたが、 お姉さんのお腹がぐーぐー鳴っていることを、ちゃんと知っています。 だから、溢れそうになる唾を飲み込み、お行儀よく我慢することができました。 「こまったときはおたがいさまだよ!」 困ったときはお互い様。 まりさは、いつもそう言ってくれます。 だけど実際には、れいむが貰う一方で、お返ししたことなど一度もありません。 本当はお返ししたいと思っていても、あげるものが何もないのです。 れいむがまりさにしてあげられることは、ひとつだけ。 そして、まりさも、そのたったひとつのことを、いつもお願いして来ます。 「ねえ!まりさにおうたをきかせてよ!」 「いいよ!ゆっくりきいていってね!」 れいむは、まりさの前で、ゆっくりとおうたを歌い始めます。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆゆ~♪」 まりさは、本当にゆっくりとした表情で、れいむのおうたを静かに聴きます。 「れいむのおうたはほんとにゆっくりしてるね!」 「ゆゆ!ありがとう!」 まりさは、お世辞を言ったのではありません。 れいむのおうたは、ゆっくりにとって、本当にゆっくりしたおうたなのです。 だけど、そのおうたを聴いてくれるのは、街中でも、このまりさしかいません。 その理由は簡単でした。 みんな生きることに必死で、おうたなど聴いている場合ではないのです。 だから、このまりさがおうたに耳を澄ますのは、彼女が恵まれていることの証なのです。 「おとうしゃんだけじゅるいよ!まりちゃもなきゃまにいれちぇにぇ!」 れいむとまりさの間に割って入ったのは、小さな体をのーびのーびさせた子まりさでした。 まりさをお父さんと呼んでいますが、2匹の間に餡子は繋がっていません。 子まりさの母親が車に轢かれ、側で泣いていたところを、まりさが拾ってあげたのです。 最初は母親が死んだショックで、まりさにはあまり懐いてくれませんでしたが、 いつからか、子まりさは、まりさをお父さんと呼ぶようになっていました。 「まりちゃだけにゃかまはじゅれにゃんてぴゅんぴゅんだよ!」 「ごめんね。でも、おちびちゃんがすーやすーやしてたから、おこさなかったんだよ。」 子まりさも、本気で怒っているわけではありません。 その証拠に、子まりさは、まりさの頬に擦り寄ると、すぐに笑顔に戻ります。 「れいみゅおねーしゃん。まりちゃにもおうちゃをきかちぇてにぇ。」 「ゆふふ。いいよ。もういっかいうたおうね。」 れいむは、そんなまりさたちのやりとりに、思わず顔が綻んでしまいます。 「れいみゅもおうちゃうちゃえるよ。」 子れいむが、もみあげさんをぴこぴこさせながら、可愛い声をあげました。 彼女も、お姉さんにおうたを教えてもらっているのです。 「それじゃあ、ふたりでうたおうね!」 「「ゆゆゆ~♪」」 その夜、乞食谷に、姉妹の楽しそうな歌声が、いつまでも響き渡りました。 次の日のこと。 物乞いから帰ったれいむのおうちへ、例のまりさが息を弾ませてやって来ます。 いったい何だろうと思っていると、まりさは次のように言いました。 「まりさ、てれびにでるよ!おかねもいっぱいもらえるよ!」 これでは、いったい何のことだか分かりません。 れいむはまりさを落ち着かせ、詳しく話してくれるように頼みました。 まりさの話はこうでした。 今日、いつもの繁華街で曲芸をしていると、いきなり男の人が話しかけてきたのです。 そして、男の人は、こう言いました。 テレビに出てみないかい、と。 彼は、某テレビ局のディレクターさんでした。 ディレクターさんの話によると、来月、街中の変わったゆっくりを紹介する番組があり、 ぜひまりさにも出演して欲しいと言うのでした。 「出演料として、500円出すよ。」 500円! まりさはびっくりしました。 だって、まりさの一ヶ月分の稼ぎが、1日で手に入るのですから。 まりさは、喜んでテレビ出演を快諾しました。 ディレクターさんは、日曜日にまた来ると言って、その場を去りました。 「もし500えんもらったら、れいむにすてきなぷれぜんとをするよ!」 500円もあれば、大きな板チョコが何枚も買えます。 まりさは口にしませんでしたが、その板チョコをれいむにプレゼントし、 そして愛の告白をするつもりだったのです。 「まりさすごいね!れいむゆっくりおうえんするよ!」 「うん!まりさもゆっくりがんばるよ!」 その日、まりさは、前祝いとして、とっておきの5円チョコを4匹で分け合いました。 上手く割れなかったので、れいむは子れいむに、まりさは子まりさに、 それぞれ大きな欠片を渡します。 「「「「む~しゃむ~しゃ♪しあわせ~♪」」」」 その夜、乞食谷に、4匹の幸せな声が、いつまでも響き渡りました。 日曜日、ついにまりさのテレビ出演の日がやって来ました。 もちろん、今日は単なる収録日で、放送は後日なのですが、 ゆっくりであるまりさたちには、そんなことは分かりません。 それに、どうせテレビを見ることなどできないのですから、 テレビに出られるかどうかなんて、本当はどうでもよかったのかもしれません。 「おにいさん!きょうはまりさのすごいわざいっぱいみせてあげるね!」 まりさが、少しばかり声を震わせて言いました。 さすがに緊張しているのでしょう。 早速、得意のバク転を決めようと身構えたところで、ディレクターさんが止めに入ります。 「あ、悪いけど、君がやることは、こっちで決めてあるんだ。」 ディレクターさんは、そう言うと、奇麗な青空を指差しました。 まりさもれいむも、そして同伴した子ゆっくりたちも、不思議そうに空を見上げます。 「あそこに綱が見えるだろう。あれを渡ってくれ。」 最初は気付きませんでしたが、ビルとビルの間に、一本の太いロープが張られていました。 それは、建物の5階から伸びていて、長さも10mはあるでしょうか。 まりさは、言葉が出せません。 だって、こんなことをやるとは、聞いていなかったのですから。 「ゆゆ。これはたかすぎるよ。それにひもさんもながすぎるよ。」 「なに、やらないの?やらないなら、他のゆっくりに頼むけど?」 ディレクターさんは、まりさを睨みつけました。 「でも……あぶないよ……。」 「危ないからこそ、視聴者も喜ぶんだろう。普通の芸で500円貰おうなんて甘いね。」 まりさは迷います。 いくらゆっくりでも、この高さから落ちれば死ぬことくらいは理解できました。 以前、お友達のまりさが、誤って歩道橋から落ちてしまい、 地面でぺちゃんこになったのを、まりさは見たことがあるからです。 まりさは、困ったように視線を落とした後、今度はれいむの方を見ました。 まりさの目には、不安と同時に、何かを諦めきれない気持ちが、入り交じっていました。 れいむは、何も言うことができません。 これは、まりさの舞台なのです。 決めるのは、まりさであって、れいむではないのです。 しばらく悩んだ末、意を決したように顔を上げると、まりさはこう言いました。 「ゆん!まりさやるよ!」 「だめだよまりさ!こんなのゆっくりできないよ!」 大声を上げたのは、れいむでした。 そんな危険なことをして欲しくない。 ただその一心から出た声でした。 「あーん?なんだこのれいむは?」 ディレクターさんが、れいむの方へ近付いてきます。 すると、まりさが、慌ててディレクターさんの前に立ちはだかりました。 「れいむはまりさのおともだちだよ!いじめないでね!いじめたらまりさやめるよ!」 ディレクターさんは、少し不機嫌そうでしたが、黙ってスタッフに合図を送ります。 カメラが用意され、撮影が始まりました。 まりさは、若い男のスタッフに持ち上げられ、ビルの中に消えて行きます。 「ゆ~ん♪おそらをとんでるみたい♪」 そんな暢気な声が、半開きの自働ドアから聞こえてきました。 まりさが棒をくわえ、ロープの前に立ったとき、彼女はびっくりしてしまいました。 下から見上げたときよりも、ずっとずっと高く感じられたからです。 さすがのまりさも、あんよが震えてしまいます。 「よーし!じゃあ始めてくれ!」 遠くから、ディレクターさんの掛け声が聞こえました。 「おとうしゃん!がんばっちぇにぇ!」 「まりしゃおじしゃんがんびゃりぇー!」 地上で無邪気にまりさを応援しているのは、子まりさと子れいむの2匹です。 彼らは体をのーびのーびさせながら、一生懸命に声を張り上げます。 その横にいるれいむは、もみあげを合わせ、不安そうにまりさを見つめているだけ。 まりさのことが心配で心配で、舌が動かないのです。 そんなれいむの顔を見ていると、何としてでも渡り切ってやろうという気持ちが、 まりさの餡子の中に、むらむらと湧いてきました。 「これがめいじんまりさのつなわたりだよ!みんなみててね!」 まりさは、棒を上下の歯でしっかりと挟み、ぐっと表情を引き締めると、 まるっこいあんよを、ロープの端に乗せました。 めまいがしそうな高さです。下を見てはいけません。 「……。」 ゆっくりと、本当にゆっくりと、まりさはロープを渡って行きます。 人間さんたちは、最初から応援も何もしていませんでしたが、 今や子ゆっくりたちも、黙ってまりさの勇姿を見守るしかありません。 芸の最中に声を上げると気が散ることは、彼らも知っていたからです。 どれほどの時間が過ぎたでしょうか。 1時間とも2時間とも感じられるような緊張の連続が過ぎ去り、 気付けば、まりさはロープの半分を渡り切っていました。 さすがの人間さんたちも、これには驚きを隠せません。 あと半分。 この調子であと半分を渡り切れば、500円玉が手に入る。 そして、れいむに愛の告白をすることができる。 まりさの餡子を支配していた恐怖が、だんだんと希望に取って代わられます。 と、そのときでした。 ビューーーッ 「!」 強烈なビル風が、道ばたにいる人々を襲います。 まりさは、歯を食いしばり、ロープの上でバランスを取ろうと必死に踏ん張りました。 普通のゆっくりならば、すぐに吹き飛ばしてしまったであろうこの強風も、 まりさの素晴らしいバランス感覚の前では、柳に風です。 そう、まりさの前では。 「おぼっ!?」 まりさは、全身を器用にくねらせ、ロープの上で絶妙なバランスを取っていました。 しかし、まりさが動かせるのは、まるっこい饅頭の体だけなのです。 だから、辛抱を切らした風は、まりさではなく、 まりさの大事なお帽子を攫って行くことに決めました。 まりさは、外れかけたお帽子を放すまいと身を捩りますが、全く意味がありません。 お帽子は飾りであり、体の一部ではないのです。 ついに、風が、お帽子のツバに、見えない指を掛けました。 「まりさ!だめだよ!」 れいむの声は、遅過ぎました。 まりさは、お帽子に対する愛着から、うっかり後を追おうとしてしまったのです。 当然、バランスを失い、そのまま地面へ真っ逆さま。 ぐちゃ、という音と一緒に、永遠にゆっくりしてしまいました。 一瞬の出来事だったので、れいむたちには、何が起きたのか分かりません。 「よーし、いい絵が取れたぞ。」 「ディレクター、テロップはどうしますか?」 「薬中まりさ、白昼の錯乱綱渡り。バカとゆっくりは高いところがお好き。」 「お、いいですねえ。高視聴率間違いなしですよ。」 ディレクターさんは、嘘を吐いたのではありません。 ゆっくりの番組が放送されるというのは、本当です。 成功すれば500円玉をあげるつもりだったのも、本当です。 ただ、ディレクターさんは、ひとつだけ言わなかったことがあるのです。 番組のタイトルが、『爆笑☆街中のおかしなゆっくりたち』だということを。 「じゃ、それっぽく見えるように、適当に編集しといてね。」 ディレクターさんがその場を去ると、他の人間さんたちも、道具の片付けを始めました。 がちゃがちゃという音に、れいむは、ようやく意識を取戻します。 そうだ、ここには人間さんたちがいる。 人間さんは、どんな病気でも治すことができる。 れいむは、昔、死んだ長のぱちゅりーに、そう教えられたのを思い出しました。 「にんげんさん!おねがいだよ!まりさをたすけてあげてね!おねがいだよ!」 しかし、人間さんたちは、誰も助けてはくれません。 れいむは、側にいた女の人のところへぴょんぴょん跳ねると、また大声で言いました。 「おねえさん!まりさはまだいきてるんだよ!だからゆっくりたすけてあげてね!」 女の人は、五月蝿そうにれいむを避けると、道具を持ってどこかへ行ってしまいました。 れいむは向きを変え、少し離れたところにいる男の人に、跳ねながら話しかけます。 「おにいさん!まりさをびょういんにつれていってあげてね!おねがいだよ!」 れいむがさらに近付こうとすると、男の人の踵が、れいむの顔に当たりました。 体の中からメキッという音が聞こえ、れいむは後ろに転がってしまいます。 起き上がってみると、口の中が何やら変な感じです。 そうです。前歯が折れてしまったのです。 男の人も、それに気付きました。 「あーあ、足下でうろちょろするから。どっか行けよ。」 「まりひゃをびょういんにひゅれてってあげてね!おねがいだよ!」 れいむは、歯の折れた痛みなど忘れて、もう一度男の人に頼みます。 「あのさ、生きてるわけないっしょ。少しは現実見ろよ。」 「まりひゃはいきてるよ!だからたひゅけてあげてね!おねがいだよ!」 男の人は、やれやれと首を横に振り、その場を離れて行きました。 誰も助けてくれないことが分かったので、れいむは涙を流しながら、 まりさのところへ駆け寄ります。 「おとうしゃん!おめめあけちぇえええ!」 「まりしゃおじしゃんげんきになっちぇね……。ぺーろぺーろ……。」 まりさの側で、子れいむと子まりさが、しくしくと泣いています。 「まりひゃ!れいむといっひょにおいひゃひゃんにいこうね!」 れいむはそのとき、初めてまりさの顔を見てしまいました。 白玉の目玉が飛び出し、そこから餡子がたくさん漏れています。 それに口の形もいびつで、だらしなく舌が垂れていました。 街中でも指折りの美ゆっくりだったまりさの面影は、もはやどこにもありません。 「まりひゃ!きっとよくなるよ!だからおいひゃひゃんへいこうね!」 まりさは、返事をしてくれません。 それから何度かまりさの名前を呼んだ後、れいむは、 ようやくまりさが死んだのだと分かりました。 「まりびゃあああ!!!まりびゃああああああ!!!」 れいむも、わんわんと泣きました。 こんなことなら、まりさを止めれば良かった。 そう思っても、全ては後の祭りです。 そして、れいむにはもうひとつ、とっても後悔したことがありました。 彼女は聞いてしまったのです。 まりさが最後に叫んだ言葉を。 れいむあいしてるよ、と。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆひゅ~♪」 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 そうです。あの乞食れいむです。 れいむはあれからも、同じ場所で、同じおうたを歌い続けています。 「こじきのまりしゃにおきゃねをめぐんでくだちゃい!おにぇがいしましゅ!」 「こじきのれいみゅはおうたがとってもじょうずなんでしゅ!きいてくだちゃい!」 だけど、歯が折れてしまったれいむは、もう今までのようにおうたが歌えません。 以前は顔色ひとつ変えずに避けていた人たちも、今や我慢ができないといった様子で、 れいむたちを睨みつけ、罵声を浴びせます。 「くっせぇ饅頭がこんなところで歌ってんじゃねーぞ!」 「きもー。あのれいむ歯がないじゃん。」 「ゆひゅ~♪ゆひひゅ~♪」 溢れそうになる涙を堪えながら、れいむはおうたを歌います。 もう、おうたを歌っても、昔の楽しかった思い出は、餡子の中に浮かんできません。 だかられいむは、何も考えず、生きるためにおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、ありゃ新入りのヘマだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅになにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、3匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 そのまま通り過ぎようとしたとき、男は、ふと足を止めました。 この光景、どこかで見たことがある。そうだ、あのれいむだ。 ずっと前に、ビール瓶の蓋で、このれいむをからかったことを、男は覚えていました。 男は、しばらくの間、じっとれいむの顔を見つめていました。 れいむの方は目を瞑り、真剣におうたを歌っています。 前歯の隙間から空気が漏れ、ひゅーひゅーと間の抜けた音が聞こえても、 れいむは真剣におうたを歌っているのです。 チャリーン 缶の底で、金属のぶつかる音がします。 「ありがとうごびゃいまひゅ。」 「「ありがとうございましゅ!」」 れいむと2匹の子ゆっくりは、もみあげとおさげで三つ指をつき、深々と頭を下げます。 サラリーマンは、お礼を言う3匹を無視して、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなると、ようやく体を持ち上げます。 「ひょうはおかねもらえひゃね。くらいからもうおうひにひゃえろうね。」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、1円玉でした。 「ゆわ~♪いひえんだまひゃんだよ♪」 れいむの顔がぱっと明るくなります。 「いちえんだましゃんゆっくりしていっちぇね!」 妹れいむも目を輝かせ、1円玉さんにすーりすーりしようと体を伸ばします。 「おじしゃんありがちょね!」 子まりさは、もう姿の見えない男の方角に向かい、何度も何度もお礼を言いました。 「ゆっくりおうひにかえってくひゃひゃんをむーひゃむーひゃひようね!」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、右のもみあげで子れいむを、左のもみあげで子まりさを抱き寄せると、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 そんなれいむの唇には、生まれて初めて恵んでもらった1円玉が、 何か大事なものと交換されたかのように、赤く赤く、輝いているのでした。 終わり これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1573.html
乞食れいむのおうた 作者:白兎 ※虐待成分少なめ。 ※独自設定。 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 ゆっくり特有のリズムを奏でながら、新聞紙の上でおうたを歌うれいむ。 彼女は、この街に住む乞食ゆっくりでした。 乞食ゆっくり。 もしかすると、皆さんは初めてお聞きになったかもしれません。 だって、この街でしか使われていない言葉ですから。 「おにいさん、こじきってなんなのぜ?」 それは、とある銀バッヂまりさの質問から始まりました。 飼い主の横でテレビを見ていたまりさが、お兄さんに、いきなりそんな質問をしたのです。 「ん?どこでそんな言葉覚えたんだ?」 「きょう、おさんぽのとちゅうで、ちいさなにんげんさんたちがいってたのぜ。」 やれやれ、とお兄さんは思いました。 あまり良くない言葉を覚えて欲しくなかったのです。 けれども、これも社会勉強と、まりさにその言葉の意味を教えることにしました。 「んー、なんて言えばいいのかな……。」 お兄さんは、知識の少ないゆっくりに、何とか説明を試みます。 「乞食って言うのはね、街中で物乞いをする人のことだよ。」 「ものごいってなんなのぜ?」 「道ばたで、人にお金をもらったりすること。」 「なんでなのぜ?にんげんさんは、かいしゃからおきゅうりょうをもらうのぜ?」 「そういう人は、仕事が無かったり、自分の家が無かったりするからね。」 まりさは、お兄さんの説明にしばらく体を捻っていましたが、 ふと全ての謎が解けたかのように、ぴんと背筋を伸ばして言いました。 「ゆん!ゆっくりりかいしたのぜ!こじきはのらのにんげんさんなのぜ!」 このまりさ、お兄さんの説明を少し勘違いしてしまったようです。 けれども、お兄さんも面倒くさかったので、あえて訂正はしませんでした。 翌日、銀まりさは、お友達のゆっくりに、この話を伝えました。 みんな、近くの家で飼われている高級なゆっくりばかりです。 「むきゅ。ぱちゅも、えきまえでみたことあるのだわ。」 「のらのにんげんさんだねー。わかるよー。」 「それじゃあ、のらのゆっくりも、こじきなのかしら?」 「きっとそうだみょん!」 野良の人間が乞食なら、野良のゆっくりも乞食だろう。 彼らは、そう結論付けました。 そして、街中で野良を見かける度に、彼らを乞食と呼ぶようになったのです。 「あんなところにこじきがいるのぜ!きたないのぜ!」 「こじきはとかいはじゃないわ!ありすのそばにこないでね!」 この2匹、別にゲスではありません。 ペットショップで、店員さんから、野良は汚くてゆっくりできないと教えられ、 それを忠実に守っているだけなのです。 けれども、この呼び名を広めたのは、当の飼いゆっくりたちではありませんでした。 それを横で聞いていた、地元の小学生です。 小学生というものは、相手を馬鹿にする言葉が大好きなのです。 あっと言う間に、地元の小学校でこの呼び名が広まりました。 そして、今度は、小学生の言葉遣いが、他の飼いゆっくりに影響を与えます。 「おーい、こっちに乞食がいるぜ!」 「ゆゆ!こじきがいるよ!」 「おおこじきこじき。」 こうして、分別のある大人を除き、みんなが野良ゆっくりを乞食と呼ぶようになりました。 野良ゆっくりたちは、それが悪口だと分かると、とても怒りました。 「れいむはこじきじゃないよ!れいむはれいむだよ!」 「まりさはりっぱなのらゆっくりだよ!こじきじゃないよ!」 ですが、毎日のように乞食乞食と言われ続けると、 なんだか本当に乞食のような気がしてしまうものです。 1年も経った頃には、野良ゆっくりも、自分たちのことを乞食と呼ぶようになりました。 ですから、この街では、野良ゆっくりはみんな、乞食ゆっくりと呼ばれているのです。 ところで、名は体を表す、という諺があります。 乞食ゆっくりたちは、だんだん本物の乞食と一緒の生活をするようになりました。 街中で、物乞いをするようになったのです。 もちろん、ただ座っているだけでは、何も貰えません。 だから、乞食ゆっくりたちは、芸を披露することにしました。 あるものはダンスを踊り、あるものはおうたを歌います。 こうして、乞食ゆっくりたちは、街中の風景にすっかり溶け込んでしまいました。 「ゆゆ~♪ゆ~ゆ~♪ゆ~♪」 このれいむも、昔は街の近くにある小さな森で暮らしていましたが、 土地開発で巣を追われ、こうして乞食になったのです。 都会での生活に慣れていないれいむには、苦労苦労の連続でしたが、 仲間の手助けにより、ここまでやってこれました。 「ゆ~♪ゆ~♪ゆゆ~♪」 「こじきのれいみゅにおきゃねをめぐんでくだちゃい!」 おうたを歌うれいむの横で、通行人に笑顔を振りまいているのは、 森を追われるときに助けた妹れいむです。 両親と他の姉妹は、おうちを潰そうとする巨大なすぃーに立ち向かい、 そして、ぺっちゃんこにされてしまいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 「おねがいしましゅ!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!」 森にいた頃は、うたひめと呼ばれ、みんながれいむのおうたを褒めてくれました。 でも、この街では、誰もれいむのおうたなど聴いてくれません。 みんな、顔色ひとつ変えずに、れいむたちの前を通り過ぎて行くだけです。 だけど、おうたを歌う以外に何もできないれいむは、おうたを歌い続けるしかありません。 「ゆゆ~ん♪ゆ~ゆゆ~♪」 おうたを歌っているとき、れいむはいつも、森での暮らしを思い浮かべます。 とっても優しいお父さんとお母さん、可愛らしい妹たち、 そして、みんなと遊んだゆっくりプレイス。 れいむは、ゆっくりとした記憶に浸りながら、今日もおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、部長の指示が悪いんだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、2匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 男は、ほんの一瞬、れいむの顔に目をやりました。 森の暮らしを思い出して歌うれいむの表情は、幸せそのものです。 男は、そのまま通り過ぎようとしましたが、何を思ったのか、 ポケットに手を入れると、きらきら光るものを、空き缶に投げ入れました。 チャリーン 金属のぶつかる音がします。 「ありがとうございます。」 れいむは、おうたを中断し、もみあげで三つ指をついて、頭を下げました。 「ありがちょうごじゃいましゅ!」 妹れいむは、ぴょんぴょん跳ねて、サラリーマンにお礼のダンスを披露します。 サラリーマンは、そんな2匹を無視すると、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなったところで、ようやく顔を上げます。 「きょうはおかねもらえたね。くらいからもうおうちにかえろうね。」 「ゆっくち~♪」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、お金ではありませんでした。 ただのビール瓶の蓋でした。 男は、嫌がらせをするために、わざとそれを入れたのです。 「ごめんね……。これおかねじゃないよ……。ごめんね……。」 「ゆぅ……。」 れいむは、白玉の目からすっと涙を流し、妹に何度も何度も謝ります。 やっと貰えたと思ったお金。 これなら、何も貰えない方が、どれほど良かったことでしょう。 「おにぇしゃんなかにゃいでにぇ。れいみゅゆっきゅりがまんしゅりゅよ。」 心配した妹が、れいむの頬にすーりすーりして来ます。 「おにぇしゃんしゅーりしゅーり。なきゃないでにぇ。」 そんな健気な妹を見ると、れいむも泣いてはいられません。 笑顔を取戻し、元気よく妹にすーりすーりし返してあげます。 「さあゆっくりおうちにかえろうね!」 「ゆっくち~♪」 れいむたちは、もみあげともみあげをしっかりと繋ぎ合わせ、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 「ゆゆん!このあんぱんさんはさんえんだよ!とってもやすいよ!」 「ちぇんかうよー!きょうはごえんだまもらったよー!」 「まりさもあまあまさんいっぱいあつめたよ!ゆっくりかいものしていってね!」 「ちーんぽ!」 ここは乞食谷。 乞食ゆっくりたちが集う、街の下宿所です。 もちろん、町中に谷などありません。 誰も住んでいないビルに囲まれた空き地が、谷底に似ているので、そう呼ばれているだけです。 乞食たちは、この谷の真ん中にあるドラム缶の前で、毎晩市場を開きます。 食べ物や段ボールなど、生活に必要なものを集めたゆっくりが、 人間からお金をもらったゆっくりに、それを売っているのです。 今日も市場は大盛況。 ゆっくりたちの賑やかな声が、あちこちから聞こえてきます。 「ゆぅ……。あんぱんしゃん……。」 そんな市場を遠くから眺めているのは、さきほどのれいむ姉妹です。 お金も物ももらえなかった2匹は、何にも交換するものがありません。 ただただ、他のゆっくりたちの買い物を見ている以外、することがないのです。 「れいみゅもあんぱんしゃんたべちゃいよ……。」 妹れいむが、物欲しそうに涎を垂らしながら、ちぇんの買った餡パンを見つめています。 「ごめんね。あしたはおかねをもらってあんぱんさんたべようね。」 「ゆぅ……。」 そんな会話をしていると、ふと市場の方から、1匹のゆっくりが跳ねて来ます。 それは、よく見知った帽子の子、ゆっくりまりさでした。 「ゆっくりしていってね!」 まりさは、笑顔でれいむに挨拶します。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇいっちぇね!」 れいむとその妹も、先程までの空腹を忘れて、元気よく挨拶を返します。 れいむは、このまりさと大の仲良しでした。 この乞食谷に案内してくれたのも、街中でたまたま出会ったこのまりさだったのです。 まりさは、人間にもそうと分かるくらいの美ゆっくりでしたが、野良は野良。 お帽子にはあちこちに穴が空き、お肌も都会の空気ですっかり汚れてしまっています。 そんなまりさは、とびっきりの笑顔で、れいむに話しかけます。 「きょうもいっぱいおかねもらえたよ!」 嘘ではありません。 このまりさは、1日になんと15円も稼ぐのです。 普通は5円も集まれば御の字なのですから、どれほど凄いかが分かります。 それもそのはず、このまりさは、芸の名人でした。 ぴょんと30センチも飛び跳ねてトンボ返りをしたり、 口に棒をくわえて、コーンの間に張った綱を渡ったりできるのです。 だから、人間さんたちの間でも、まりさはとっても有名でした。 「れいむはおかいものしないの?」 まりさは、れいむにそっと尋ねました。 れいむは何も答えませんでしたが、まりさには分かっています。 だって、れいむがお買い物をすることなど、滅多にないのですから。 れいむは、それくらい物乞いが下手なのです。 けれども、嫌みで尋ねたわけではありません。 まりさは、いつもこうやって、れいむにプレゼントする機会を作っているのです。 「れいむにこれあげるよ!」 まりさは、帽子の中から、野菜屑を取り出して、れいむに差し出します。 それは、八百屋さんの前で芸を披露したときに、店のおじさんから貰ったものでした。 このおじさん、普段はじゃがいもの皮しかくれないのですが、 その日はまりさの宙返りがあまりにも見事だったので、キャベツの葉っぱをくれました。 「ゆゆん!まりさありがとう!」 れいむは、うれし涙を流しながら、キャベツの葉っぱを受け取ります。 それを見た妹のれいむは、今にも端っこに噛み付いてしまいそうでしたが、 お姉さんのお腹がぐーぐー鳴っていることを、ちゃんと知っています。 だから、溢れそうになる唾を飲み込み、お行儀よく我慢することができました。 「こまったときはおたがいさまだよ!」 困ったときはお互い様。 まりさは、いつもそう言ってくれます。 だけど実際には、れいむが貰う一方で、お返ししたことなど一度もありません。 本当はお返ししたいと思っていても、あげるものが何もないのです。 れいむがまりさにしてあげられることは、ひとつだけ。 そして、まりさも、そのたったひとつのことを、いつもお願いして来ます。 「ねえ!まりさにおうたをきかせてよ!」 「いいよ!ゆっくりきいていってね!」 れいむは、まりさの前で、ゆっくりとおうたを歌い始めます。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆゆ~♪」 まりさは、本当にゆっくりとした表情で、れいむのおうたを静かに聴きます。 「れいむのおうたはほんとにゆっくりしてるね!」 「ゆゆ!ありがとう!」 まりさは、お世辞を言ったのではありません。 れいむのおうたは、ゆっくりにとって、本当にゆっくりしたおうたなのです。 だけど、そのおうたを聴いてくれるのは、街中でも、このまりさしかいません。 その理由は簡単でした。 みんな生きることに必死で、おうたなど聴いている場合ではないのです。 だから、このまりさがおうたに耳を澄ますのは、彼女が恵まれていることの証なのです。 「おとうしゃんだけじゅるいよ!まりちゃもなきゃまにいれちぇにぇ!」 れいむとまりさの間に割って入ったのは、小さな体をのーびのーびさせた子まりさでした。 まりさをお父さんと呼んでいますが、2匹の間に餡子は繋がっていません。 子まりさの母親が車に轢かれ、側で泣いていたところを、まりさが拾ってあげたのです。 最初は母親が死んだショックで、まりさにはあまり懐いてくれませんでしたが、 いつからか、子まりさは、まりさをお父さんと呼ぶようになっていました。 「まりちゃだけにゃかまはじゅれにゃんてぴゅんぴゅんだよ!」 「ごめんね。でも、おちびちゃんがすーやすーやしてたから、おこさなかったんだよ。」 子まりさも、本気で怒っているわけではありません。 その証拠に、子まりさは、まりさの頬に擦り寄ると、すぐに笑顔に戻ります。 「れいみゅおねーしゃん。まりちゃにもおうちゃをきかちぇてにぇ。」 「ゆふふ。いいよ。もういっかいうたおうね。」 れいむは、そんなまりさたちのやりとりに、思わず顔が綻んでしまいます。 「れいみゅもおうちゃうちゃえるよ。」 子れいむが、もみあげさんをぴこぴこさせながら、可愛い声をあげました。 彼女も、お姉さんにおうたを教えてもらっているのです。 「それじゃあ、ふたりでうたおうね!」 「「ゆゆゆ~♪」」 その夜、乞食谷に、姉妹の楽しそうな歌声が、いつまでも響き渡りました。 次の日のこと。 物乞いから帰ったれいむのおうちへ、例のまりさが息を弾ませてやって来ます。 いったい何だろうと思っていると、まりさは次のように言いました。 「まりさ、てれびにでるよ!おかねもいっぱいもらえるよ!」 これでは、いったい何のことだか分かりません。 れいむはまりさを落ち着かせ、詳しく話してくれるように頼みました。 まりさの話はこうでした。 今日、いつもの繁華街で曲芸をしていると、いきなり男の人が話しかけてきたのです。 そして、男の人は、こう言いました。 テレビに出てみないかい、と。 彼は、某テレビ局のディレクターさんでした。 ディレクターさんの話によると、来月、街中の変わったゆっくりを紹介する番組があり、 ぜひまりさにも出演して欲しいと言うのでした。 「出演料として、500円出すよ。」 500円! まりさはびっくりしました。 だって、まりさの一ヶ月分の稼ぎが、1日で手に入るのですから。 まりさは、喜んでテレビ出演を快諾しました。 ディレクターさんは、日曜日にまた来ると言って、その場を去りました。 「もし500えんもらったら、れいむにすてきなぷれぜんとをするよ!」 500円もあれば、大きな板チョコが何枚も買えます。 まりさは口にしませんでしたが、その板チョコをれいむにプレゼントし、 そして愛の告白をするつもりだったのです。 「まりさすごいね!れいむゆっくりおうえんするよ!」 「うん!まりさもゆっくりがんばるよ!」 その日、まりさは、前祝いとして、とっておきの5円チョコを4匹で分け合いました。 上手く割れなかったので、れいむは子れいむに、まりさは子まりさに、 それぞれ大きな欠片を渡します。 「「「「む~しゃむ~しゃ♪しあわせ~♪」」」」 その夜、乞食谷に、4匹の幸せな声が、いつまでも響き渡りました。 日曜日、ついにまりさのテレビ出演の日がやって来ました。 もちろん、今日は単なる収録日で、放送は後日なのですが、 ゆっくりであるまりさたちには、そんなことは分かりません。 それに、どうせテレビを見ることなどできないのですから、 テレビに出られるかどうかなんて、本当はどうでもよかったのかもしれません。 「おにいさん!きょうはまりさのすごいわざいっぱいみせてあげるね!」 まりさが、少しばかり声を震わせて言いました。 さすがに緊張しているのでしょう。 早速、得意のバク転を決めようと身構えたところで、ディレクターさんが止めに入ります。 「あ、悪いけど、君がやることは、こっちで決めてあるんだ。」 ディレクターさんは、そう言うと、奇麗な青空を指差しました。 まりさもれいむも、そして同伴した子ゆっくりたちも、不思議そうに空を見上げます。 「あそこに綱が見えるだろう。あれを渡ってくれ。」 最初は気付きませんでしたが、ビルとビルの間に、一本の太いロープが張られていました。 それは、建物の5階から伸びていて、長さも10mはあるでしょうか。 まりさは、言葉が出せません。 だって、こんなことをやるとは、聞いていなかったのですから。 「ゆゆ。これはたかすぎるよ。それにひもさんもながすぎるよ。」 「なに、やらないの?やらないなら、他のゆっくりに頼むけど?」 ディレクターさんは、まりさを睨みつけました。 「でも……あぶないよ……。」 「危ないからこそ、視聴者も喜ぶんだろう。普通の芸で500円貰おうなんて甘いね。」 まりさは迷います。 いくらゆっくりでも、この高さから落ちれば死ぬことくらいは理解できました。 以前、お友達のまりさが、誤って歩道橋から落ちてしまい、 地面でぺちゃんこになったのを、まりさは見たことがあるからです。 まりさは、困ったように視線を落とした後、今度はれいむの方を見ました。 まりさの目には、不安と同時に、何かを諦めきれない気持ちが、入り交じっていました。 れいむは、何も言うことができません。 これは、まりさの舞台なのです。 決めるのは、まりさであって、れいむではないのです。 しばらく悩んだ末、意を決したように顔を上げると、まりさはこう言いました。 「ゆん!まりさやるよ!」 「だめだよまりさ!こんなのゆっくりできないよ!」 大声を上げたのは、れいむでした。 そんな危険なことをして欲しくない。 ただその一心から出た声でした。 「あーん?なんだこのれいむは?」 ディレクターさんが、れいむの方へ近付いてきます。 すると、まりさが、慌ててディレクターさんの前に立ちはだかりました。 「れいむはまりさのおともだちだよ!いじめないでね!いじめたらまりさやめるよ!」 ディレクターさんは、少し不機嫌そうでしたが、黙ってスタッフに合図を送ります。 カメラが用意され、撮影が始まりました。 まりさは、若い男のスタッフに持ち上げられ、ビルの中に消えて行きます。 「ゆ~ん♪おそらをとんでるみたい♪」 そんな暢気な声が、半開きの自働ドアから聞こえてきました。 まりさが棒をくわえ、ロープの前に立ったとき、彼女はびっくりしてしまいました。 下から見上げたときよりも、ずっとずっと高く感じられたからです。 さすがのまりさも、あんよが震えてしまいます。 「よーし!じゃあ始めてくれ!」 遠くから、ディレクターさんの掛け声が聞こえました。 「おとうしゃん!がんばっちぇにぇ!」 「まりしゃおじしゃんがんびゃりぇー!」 地上で無邪気にまりさを応援しているのは、子まりさと子れいむの2匹です。 彼らは体をのーびのーびさせながら、一生懸命に声を張り上げます。 その横にいるれいむは、もみあげを合わせ、不安そうにまりさを見つめているだけ。 まりさのことが心配で心配で、舌が動かないのです。 そんなれいむの顔を見ていると、何としてでも渡り切ってやろうという気持ちが、 まりさの餡子の中に、むらむらと湧いてきました。 「これがめいじんまりさのつなわたりだよ!みんなみててね!」 まりさは、棒を上下の歯でしっかりと挟み、ぐっと表情を引き締めると、 まるっこいあんよを、ロープの端に乗せました。 めまいがしそうな高さです。下を見てはいけません。 「……。」 ゆっくりと、本当にゆっくりと、まりさはロープを渡って行きます。 人間さんたちは、最初から応援も何もしていませんでしたが、 今や子ゆっくりたちも、黙ってまりさの勇姿を見守るしかありません。 芸の最中に声を上げると気が散ることは、彼らも知っていたからです。 どれほどの時間が過ぎたでしょうか。 1時間とも2時間とも感じられるような緊張の連続が過ぎ去り、 気付けば、まりさはロープの半分を渡り切っていました。 さすがの人間さんたちも、これには驚きを隠せません。 あと半分。 この調子であと半分を渡り切れば、500円玉が手に入る。 そして、れいむに愛の告白をすることができる。 まりさの餡子を支配していた恐怖が、だんだんと希望に取って代わられます。 と、そのときでした。 ビューーーッ 「!」 強烈なビル風が、道ばたにいる人々を襲います。 まりさは、歯を食いしばり、ロープの上でバランスを取ろうと必死に踏ん張りました。 普通のゆっくりならば、すぐに吹き飛ばしてしまったであろうこの強風も、 まりさの素晴らしいバランス感覚の前では、柳に風です。 そう、まりさの前では。 「おぼっ!?」 まりさは、全身を器用にくねらせ、ロープの上で絶妙なバランスを取っていました。 しかし、まりさが動かせるのは、まるっこい饅頭の体だけなのです。 だから、辛抱を切らした風は、まりさではなく、 まりさの大事なお帽子を攫って行くことに決めました。 まりさは、外れかけたお帽子を放すまいと身を捩りますが、全く意味がありません。 お帽子は飾りであり、体の一部ではないのです。 ついに、風が、お帽子のツバに、見えない指を掛けました。 「まりさ!だめだよ!」 れいむの声は、遅過ぎました。 まりさは、お帽子に対する愛着から、うっかり後を追おうとしてしまったのです。 当然、バランスを失い、そのまま地面へ真っ逆さま。 ぐちゃ、という音と一緒に、永遠にゆっくりしてしまいました。 一瞬の出来事だったので、れいむたちには、何が起きたのか分かりません。 「よーし、いい絵が取れたぞ。」 「ディレクター、テロップはどうしますか?」 「薬中まりさ、白昼の錯乱綱渡り。バカとゆっくりは高いところがお好き。」 「お、いいですねえ。高視聴率間違いなしですよ。」 ディレクターさんは、嘘を吐いたのではありません。 ゆっくりの番組が放送されるというのは、本当です。 成功すれば500円玉をあげるつもりだったのも、本当です。 ただ、ディレクターさんは、ひとつだけ言わなかったことがあるのです。 番組のタイトルが、『爆笑☆街中のおかしなゆっくりたち』だということを。 「じゃ、それっぽく見えるように、適当に編集しといてね。」 ディレクターさんがその場を去ると、他の人間さんたちも、道具の片付けを始めました。 がちゃがちゃという音に、れいむは、ようやく意識を取戻します。 そうだ、ここには人間さんたちがいる。 人間さんは、どんな病気でも治すことができる。 れいむは、昔、死んだ長のぱちゅりーに、そう教えられたのを思い出しました。 「にんげんさん!おねがいだよ!まりさをたすけてあげてね!おねがいだよ!」 しかし、人間さんたちは、誰も助けてはくれません。 れいむは、側にいた女の人のところへぴょんぴょん跳ねると、また大声で言いました。 「おねえさん!まりさはまだいきてるんだよ!だからゆっくりたすけてあげてね!」 女の人は、五月蝿そうにれいむを避けると、道具を持ってどこかへ行ってしまいました。 れいむは向きを変え、少し離れたところにいる男の人に、跳ねながら話しかけます。 「おにいさん!まりさをびょういんにつれていってあげてね!おねがいだよ!」 れいむがさらに近付こうとすると、男の人の踵が、れいむの顔に当たりました。 体の中からメキッという音が聞こえ、れいむは後ろに転がってしまいます。 起き上がってみると、口の中が何やら変な感じです。 そうです。前歯が折れてしまったのです。 男の人も、それに気付きました。 「あーあ、足下でうろちょろするから。どっか行けよ。」 「まりひゃをびょういんにひゅれてってあげてね!おねがいだよ!」 れいむは、歯の折れた痛みなど忘れて、もう一度男の人に頼みます。 「あのさ、生きてるわけないっしょ。少しは現実見ろよ。」 「まりひゃはいきてるよ!だからたひゅけてあげてね!おねがいだよ!」 男の人は、やれやれと首を横に振り、その場を離れて行きました。 誰も助けてくれないことが分かったので、れいむは涙を流しながら、 まりさのところへ駆け寄ります。 「おとうしゃん!おめめあけちぇえええ!」 「まりしゃおじしゃんげんきになっちぇね……。ぺーろぺーろ……。」 まりさの側で、子れいむと子まりさが、しくしくと泣いています。 「まりひゃ!れいむといっひょにおいひゃひゃんにいこうね!」 れいむはそのとき、初めてまりさの顔を見てしまいました。 白玉の目玉が飛び出し、そこから餡子がたくさん漏れています。 それに口の形もいびつで、だらしなく舌が垂れていました。 街中でも指折りの美ゆっくりだったまりさの面影は、もはやどこにもありません。 「まりひゃ!きっとよくなるよ!だからおいひゃひゃんへいこうね!」 まりさは、返事をしてくれません。 それから何度かまりさの名前を呼んだ後、れいむは、 ようやくまりさが死んだのだと分かりました。 「まりびゃあああ!!!まりびゃああああああ!!!」 れいむも、わんわんと泣きました。 こんなことなら、まりさを止めれば良かった。 そう思っても、全ては後の祭りです。 そして、れいむにはもうひとつ、とっても後悔したことがありました。 彼女は聞いてしまったのです。 まりさが最後に叫んだ言葉を。 れいむあいしてるよ、と。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆひゅ~♪」 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 そうです。あの乞食れいむです。 れいむはあれからも、同じ場所で、同じおうたを歌い続けています。 「こじきのまりしゃにおきゃねをめぐんでくだちゃい!おにぇがいしましゅ!」 「こじきのれいみゅはおうたがとってもじょうずなんでしゅ!きいてくだちゃい!」 だけど、歯が折れてしまったれいむは、もう今までのようにおうたが歌えません。 以前は顔色ひとつ変えずに避けていた人たちも、今や我慢ができないといった様子で、 れいむたちを睨みつけ、罵声を浴びせます。 「くっせぇ饅頭がこんなところで歌ってんじゃねーぞ!」 「きもー。あのれいむ歯がないじゃん。」 「ゆひゅ~♪ゆひひゅ~♪」 溢れそうになる涙を堪えながら、れいむはおうたを歌います。 もう、おうたを歌っても、昔の楽しかった思い出は、餡子の中に浮かんできません。 だかられいむは、何も考えず、生きるためにおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、ありゃ新入りのヘマだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅになにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、3匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 そのまま通り過ぎようとしたとき、男は、ふと足を止めました。 この光景、どこかで見たことがある。そうだ、あのれいむだ。 ずっと前に、ビール瓶の蓋で、このれいむをからかったことを、男は覚えていました。 男は、しばらくの間、じっとれいむの顔を見つめていました。 れいむの方は目を瞑り、真剣におうたを歌っています。 前歯の隙間から空気が漏れ、ひゅーひゅーと間の抜けた音が聞こえても、 れいむは真剣におうたを歌っているのです。 チャリーン 缶の底で、金属のぶつかる音がします。 「ありがとうごびゃいまひゅ。」 「「ありがとうございましゅ!」」 れいむと2匹の子ゆっくりは、もみあげとおさげで三つ指をつき、深々と頭を下げます。 サラリーマンは、お礼を言う3匹を無視して、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなると、ようやく体を持ち上げます。 「ひょうはおかねもらえひゃね。くらいからもうおうひにひゃえろうね。」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、1円玉でした。 「ゆわ~♪いひえんだまひゃんだよ♪」 れいむの顔がぱっと明るくなります。 「いちえんだましゃんゆっくりしていっちぇね!」 妹れいむも目を輝かせ、1円玉さんにすーりすーりしようと体を伸ばします。 「おじしゃんありがちょね!」 子まりさは、もう姿の見えない男の方角に向かい、何度も何度もお礼を言いました。 「ゆっくりおうひにかえってくひゃひゃんをむーひゃむーひゃひようね!」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、右のもみあげで子れいむを、左のもみあげで子まりさを抱き寄せると、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 そんなれいむの唇には、生まれて初めて恵んでもらった1円玉が、 何か大事なものと交換されたかのように、赤く赤く、輝いているのでした。 終わり これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/2764.html
『ゆっくり公民 ~カースト制~(中編)』 29KB いじめ 差別・格差 戦闘 群れ ゲス 希少種 自然界 人間なし 3作目 中篇 ゆっくり公民 ~カースト制~(前編)の続きになります 一匹のゆっくりが森の中を飛び跳ねている、そのゆっくりは奇妙なわっかを背負っている。 そのゆっくりが何事か呟くと、そのわっか横に、棒のような物が浮かび上がる、 「……オンバシラー」 ゆっくりの掛け声によって、その棒は上の方に飛んで行き、近くの木の枝にぶつかった。 ガサガサと言う音と共に、木の葉と木の実がいくつか落ちてくる、ゆっくりは満足そうにそれらを口に入れるとその場から去って行った。 ゆっくりかなこである、希少種の一種であるこのゆっくりはオンバシラと呼ばれるものを呼び出し、扱うことが出きるゆっくりで、その攻撃力はとても高く、多くの捕食種を撃退できるだけではなく、ドスまりさに痛打を与える事さえできるのである。 このかなこは、この森で一匹静かに暮らしていた、多くのゆっくりが生息し、いくつもの群れが存在する森だが、かなこの住んでいる辺りは群れが無く、いくつもの家族が自由気ままに暮らしている地域であった。もっとも群れがあってもこのかなこが入る事は無かっただろう、かなこは他のゆっくりを基本的に信用せず、一匹で自由に生きてきたゆっくりであった。 その日もかなこは、狩りを終えると家に戻り、一匹で自由気ままにゆっくりをする予定だった、季節は秋の終わり、他のゆっくり達は必死に越冬のための食料をかき集めている時期である。そんな中でもかなこはとてもゆっくりとしていた、すでにおうちの越冬準備は完了しているし、食料も優に成ゆっくり三匹が越冬できるほどに集められている、後は冬篭りに入るだけである。 しかし、かなこはまだ外を出歩いていた、かなこは秋が好きだった、既にかなこの最も好きな紅葉はほとんど無いが、秋から冬に移り変わる、その悲しい季節も好んでいた。 今日の夕食の分の食料を口に含み、おうちへの道を急ぐ、かなこは途中の木の根元でゆっくりの泣き声が聞こえるのに気がつき、好奇心からその木へと近寄った、そこに居たのは子ゆっくりだった、いや、大きさはほとんど赤ゆっくりのようだ、しかし、泣いているそのゆっくりの言葉から赤ちゃん言葉が抜けている事だけが、その小さなゆっくりが子ゆっくりで有ると教えていた。 思わずその子ゆっくりを見つめてしまうかなこ、普段であれば無視していただろう。 しかし、その子ゆっくりには何故かかなこへ強く訴えかけるものがあった、小さな、緑の髪の子ゆっくり、それはゆっくりさなえであった。 子さなえに声をかけるかなこ、しかし泣き続けるさなえとは話が通じない、寒さから日暮れが近いことを知ったかなこはその子さなえを口に入れ、自分のおうちへ連れ帰ってしまった。 おうちに着くと、かなこはまず子さなえに食事を摂らせた。 「むーしゃ、むしゃー、しあわせーです!」 満足に食事を摂っていなかったのか、すごい勢いで食べる子さなえを苦笑しながら見守るかなこ。 落ち着いた子さなえから事情を聞くと、子供の言葉のため分かりにくいが、子さなえが語ったのは次のようなことだった。 子さなえは母親であるれいむの元に生まれた。父親は永遠にゆっくりしてしまったのか、子さなえは会った事が無く、家族は母れいむとたくさんの姉れいむと姉まりさ達だった。生まれてからしばらくは、家族みんなでゆっくりしていたが、だんだん一匹だけ異なる子さなえが、れいむやまりさの姉達にいじめられるようになり、母れいむもそれを止めるどころか自分もそのいじめに加わりだした、最初は無視されたり、突き飛ばされることが多かったが、寒くなりだしたころから食料が少なくなり、一家の間にゆっくり出来ない空気が流れるようになった、子さなえは真っ先に食事を減らされずっと耐えていたが、とうとう昨日、耐えられなくなり母れいむに訴えたところ、罵られたあげく口の中に入れられ、おうちから遠いところに捨てられたそうだ。子さなえは母親を追いかけたが、子ゆっくり ――体はほとんど赤ゆっくりではほとんど歩けずあの場で泣いていたというのだ。 それを聞き終えたかなこは、何故自分がこのさなえに強く惹かれたのか分かった気がした。 この子さなえは似ているのだ、昔の自分と、かなこは親切なぱちゅりーに拾われたことにより命を永らえるが。 あの経験はかなこの中に、他のゆっくりへの大きな不信感を残してしまった。 かなこは思わず口にした、 「ねぇ、さなえ?だったら私の娘になるかい?」 それは昔の自分に似ているさなえへの同情だったのかも知れない、それとも、ゆっくりかなこという種がゆっくりさなえへ持つと言う親近感だったのかも知れない。 「は、はいかなこさま、ゆっくりしていってね……」 「ゆっくりしていってね……せめて、おかあさまとよびなよ」 こうして二匹は家族になった、その直後に冬篭りに入り、まだ小さい子さなえにとっては辛い越冬になったが、かなこが整備したおうちと蓄えてあった食料により越冬は成功する。春になり、おうちの外に出たかなことさなえ、厳しい冬を越しさなえは立派なゆっくりとなっていた。 「おかぁさま、これはなんですか?」 「あわてるんじゃ、ないよ、まったく」 初めてゆっくりと見る森に舞い上がるさなえ、体は子ゆっくりと成ゆっくりの中間くらいの大きさだが、心は完全に子供である。冬の間にかなこから様々な事を学んではいたが、実際に目の前にすると違う、ピョンピョンとあっちこっちを飛び回るさなえにかなこは目がはなせない。 「まったく、さなえはしょうがないね……」 しかし、そんなかなこはとてもゆっくりとしていた、かなこにとって初めての、他のゆっくりとのゆっくりだった。 春の香りに包まれた森で、かなこはさなえに森の知識と狩りの方法を教えることになる。 希少種とはいえ、かなこ種の様に特殊能力を持たないさなえだが、持ち前の素直さでかなこの狩りの知識を吸収する。 しばらくすると、さなえは自分のごはんくらいは自分で集められるまでに成長した。 そんなゆっくりとした生活を続けた二匹を、大きな事件が襲ったのはその年の夏、初夏も過ぎて日中の暑さが辛くなってきたころだった。 かなことさなえが住む森の一画は、居住ゆっくりの数が少なく、いくつかの家族が離れて暮らしており、群れなどの組織も無い所だった。 狩りでおうちの周りを活動するかなこは、さいきん周囲のゆっくりが増えてきているのを不審に思っていた。 さなえにも注意をしたかなこは、辺りを調べ、やはり地域のゆっりが増えていることに気がつくと近くのゆっくりと接触して事情を聞くことにした。 この地域にゆっくりが増えているのはどうも、この場所から見て山の見える方角にいたゆっくり達が移住してきているのが原因のようで、実際に移住してきたという家族に聞くと逃げてきたというのだ。 逃げてきたというゆっくり達の証言は、恐怖によるものか微妙に食い違いがあるものの、一貫しているのは、彼らの所属していた群れが別の群れの襲撃を受けたという点である。 ゲスやレイパーの襲撃というのは、森では偶に起きる事件である、しかし、一つの証言が知れ渡ると森のゆっくり達に動揺が広がった。 「襲撃を行っている群れには、ドスまりさが居る」 これは、ゆっくりにとっては大きな衝撃である、すべてのゆっくりをゆっくりさせてくれる存在――ドスまりさはゆっくりならば誰でも知っており、ドスまりさと襲撃という、ゆっくり出来ない行為が一致しなかったのだ。 ドスが居ると聞いて、喜び勇んで山の見える方へ向かったゆっくり達が戻ってくることは無かった、むしろ山の方角から逃げてくるゆっくりが増えてゆき、その一帯のゆん口は増加の一途をたどった。 かなこは、ドスが居ると聞きてもさすがに喜ぶことは無かった。 いや、むしろ警戒したと言ってもよい、既に森で数年生きたかなこはこの森に居たといドスの噂も聞いたことがある、しかしそのドスは群れを連れて何処かに移住したと聞いている。 そのドスがゆっくりの群れを襲っているのだろうか。ドゲスと言う存在は来たことが有るが、噂に聞いたドスはとてもゆっくりしたドスだったという、しかしもしドゲスが襲撃してくるとすると危険である、かなこのオンバシラなら普通のゆっくりは十数匹を相手にしてもなぎ払える、しかしドスはどうだろうか。傷を与える事なら出来るかもしれないが、勝利するのは難しいだろう、しかも今のかなこにはさなえが居るのだ、この事がかなこを迷わせた。 かなこが移住という名の逃亡を選択しようか迷っているころ、その地域のゆっくりに一つの動きがあった。 それまで元々住んでいたゆっくりが群れを持たなかったこともあり、自由に移住してきたゆっくり達だがその数が増え、群れの襲撃という危機感から、集まり群れを作ろうという流れが出来始めていた。 これには移住者を受け入れてしまったせいでゆん口が増加し、狩などの際トラブルが起き易くなった事からその解決のための方法が望まれたからである。 一度は他の土地への移住を考えたかなこだが、さなえが居る点と、この森の他の地域への無知を自覚したことから、この土地へ残ることを選択する。 かくして、ゆっくり達の間に誰ともなしに呼びかけられ開催にいたった、群れの集まりにかなことさなえの姿もあった。 集まったゆっくり達の話し合いは揉めに揉めることとなる、もともと群れが存在しなかった所に、元々いたゆっくりの数倍ものゆっくりがつめかけたのだ、さらに襲撃により壊滅した群れからの逃亡ゆっくりの中に、元の群れで長や参謀をやっていたゆっくりが複数居たことから、話はややこしくなる。 一匹が元の群れに有ったという掟や制度を提案すると、他の一匹が自分の元の群れの掟を持ち出してそれを批判する。 根拠の無いものを持ち出して主導権をとろうとするゆっくり、自分の力を見せ付けようとするゆっくり、まさに泥の中に饅頭を投げ込み、こねくり回した有様である。 結局、掟などは成立せず、襲撃の際は一丸となって闘うという点が合意に至ったのみであった。 結局、この群れもどきはいくつかの集団の寄り合い所帯となる。 かなこは、元々この地域に暮らしていたゆっくりとも仲が良いわけでは無かったが、希少種であることと狩などの腕では有名であり、いくつかの集団から勧誘を受けることとなる、それに対して言葉を濁していると、同じような目に遭っている一匹のゆっくりが目に付いた。 狐のような耳を覆うデザインのお帽子、九本のしっぽ、ゆっくりらんである。 らんの方でもかなこに気がついたのか、二匹は意気投合することとなった。 さなえも加えた三匹は、以後行動を共にするようになる、 「まったく災難でしたね、しかし同じ希少種の仲間が居て心強いですよ」 そんな風に語るらんは、元々とある群れに所属していたらしい、しかしその群れでもらんが希少種で有ることから特別扱いを受け、最終的にトラブルが起きてしまった――詳しくは語らなかったが、ちぇん種に絡むトラブルらしい。 そして、群れを出てからは一匹で暮らしてきたというのだ。 そんな三匹の元にはやはり親近感があるのか、集まったゆっくり達の中から、希少種と呼ばれるゆっくりが集まるようになる、ゆっくりすわこ、ゆっくりてんこ、ゆっくりえーりん、ゆっくりけーね、ゆっくりもこう、彼らはこの辺りの森に詳しいことからかなこをリーダーとして、数こそは少ないもののこの群れもどきの中で一つの勢力となっていった。 かなこ達、希少種のグループにあってさなえは非常にかわいがられることになる、最年少であることとその素直さで他の希少種たちに好かれたさなえはのために、仲間達はいろいろな事を考えた。 本来希少種のみでも行える狩を、他の通常種のゆっくりと協力して行うのもその一環だった。 ゆっくりけーねの提案により――この世界のほとんどのゆっくりは通常種であり、希少種のみと付き合うとさなえの教育に悪いというものだが――行われた取り組みで、かなこは失望することになる。 能力が低く、ほとんど成果は出せないのに、公平どころか理由をつけて大目の分配を要求する、れいむ種。 逆に能力はそれなりに高いのに、それを鼻にかけてまじめにやらない、まりさ種。 とかいはという謎の概念に囚われ、他のゆっくりの言葉を聞かない、ありす種。 素直で性格はいいのだが、のんきで単純、あまり深く考えない、ちぇん種。 他の種よりは知恵が回るが、それを理由に肉体労働を行おうとせず、他の種に寄生をしようとするぱちゅりー種。 戦闘能力は通常種では最大だが、その能力を闘い以外に使おうとしない、みょん種。 成ゆっくりになってから、これまであまり付き合ってこなかった通常種のゆっくり達の酷さに呆れ返るかなこ。 これはかえってさなえの教育に悪いのでは……そんな風に考え出したかなこにとって決定的ともいえる事件が起こった。 事件の始まりはある日の狩りであった、かなことさなえを含む希少種と数組の通常種の家族が協力をして狩りをする、そう決まっていた日の朝、待ち合わせの場所に一匹のれいむが着ていた、それだけならなんらおかしい事は無い。 なんと、そのれいむの周りには赤れいむ4匹に赤ありす4匹、合わせて8匹の赤ゆっくりが着いていたのだ。 当たり前だがこれから狩りに向かうところに赤ゆっくりが居ても役に立たない、邪魔になるだけでなく面倒をみるゆっくりが必要になるだろう。 「ゆ~♪おちびちゃん、おいしいごはんさんをもらうからね♪ゆっくりまっててね♪」 「「「「「「ゆっきゅりりきゃいしぃちゃよ!」」」」」」 周りのゆっくり達も呆れているのかそんなれいむを見つめている、そんなこととは露知らず周りの赤ゆっくりをぺーろぺーろとしているれいむ。 これは、このれいむの打算であった、このれいむは今まで希少種のグループとの共同での狩には参加したことが無い。 しかしそれに参加したゆっくり達から、希少種のゆっくりと一緒に狩りをすれば非常に多くの収穫が得られる事を聞き、さらに参加したゆっくりの数による公平な分配であることを聞いて、それならおちびちゃんをつれていけばいいね、と餡子脳で考えたのだ。 もちろん赤ゆっくりが狩りを出来ないのはれいむも分かっている、しかしれいむは、 「こんなかわいいおちびちゃんがいっしょにいたら、みんな、いつもよりかりをがんばっちゃうね!」 などと考えて赤ゆっくりを連れてくることになる。 周りがそんなれいむにあきれ返って居る中、このれいむを見て強いショックを受けたゆっくりがいた、さなえである。 「ゆ!……そ、そんなおかぁさま!」 実はこのれいむ、昨年の晩秋にさなえを捨てたれいむである、冬篭りの準備中に寒さから身を守るためにしたすーりすーりから、すっきりーをしてしまったれいむとまりさの番。れいむが植物性にんっしんをしてしまい、そのれいむに急かされたまりさは必死に狩りをすることになる。過労によってまりさが永遠にゆっくりしてしまうのは時間の問題であった。 一匹で出産を終えたれいむは蓄えた食糧を使い子育てを始めることになる、生まれた9匹の赤ゆっくりの中にチェンジリングとして居たのがさなえであった。自分に似た赤れいむと、番に似た赤まりさには、愛を感じたれいむだったが初めて見る赤さなえには何かゆっくりできないものを感じていた。出産により芽生えた「ぼせい」によって殺すことこそ無かったが他の赤ゆっくりとは区別して育てていくことになる。そんな母の態度は瞬く間に赤ゆっくりに伝染した、さなえはこうして姉妹達からのいじめを受けることになる。そこに冬を前にして貯めた食料が尽きるという事態が重なる、さなえの食事はどんどんと減らされてゆき、耐えられなったさなえにイライラの募っていたれいむは怒り、さなえはお家から離れた所に捨てられたのだった。 その後のれいむは、狩りを行うものの秋の終わりに食料がそんなに集まることも無く、冬が始まると早々に赤まりさを潰して食い、もうしばらくして食料の不足からゲス化した赤れいむを潰して食って越冬に成功することになった。 なんとか春まで生き延びたものの、食糧不足から弱りきっていたれいむは、おうちを出たところで倒れ、それを助けたありすと暮らすことになる、しばらくしてからすっきりーしてにんっしんするものの、夫のありすは梅雨の時期に狩りに出たことから永遠にゆっくりしてしまい、しんぐるまざーとなってしまう、ありすの蓄えて出産をした後は、この地域に多くのゆっくりが流れ込んできた時期であり、しんぐるまざーであることを理由に物乞いを続けて生きてきたのだ。 さなえを見たれいむは、すぐさまそのさなえが自分の捨てた――既に永遠にゆっくりしてしまったと思っていた――さなえだと気がつく。 「どうして、おまえがゆっくりしているんだ!」 「れいむのおちびちゃんがえいえんにゆっくりして、どうしてゆっくりしていないおまえが!!!」 自分の行いを棚に上げ、さなえに飛び掛るれいむ。 れいむの体当たりを受けたさなえは吹く飛ばされる、そこに飛び込んだ影、 「何をしている!やめなないか!」 ゆっくりらんであった、らんは9本の尻尾を大きく広げ、れいむを威嚇する。 「ゆ、なにするのらん!じゃましないでね、ゆっくりできないちびをせいっさいするだけだよ!」 突き飛ばされた衝撃で体を打ったさなえは、ゆっくりえーりんに手当てを受けている。 その頃になると、騒ぎに気がついた他のゆっくり達も集まってくる、希少種達は一様にさなえを気遣い、れいむに冷たい視線を向ける。 その中でもさなえの様子を見たかなこの怒りは特別な物であった。 「家のさなえに何をするんだ、れいむ!返答しだいでは決して許さないよ!」 「なにをいってるの、それはれいむのさなえだよ、れいむがなにしようとかってでしょ!」 れいむの返答にかなこは、このれいむの素性に気がつく。 間違いない、こいつがさなえを捨てたゆっくりだ、何てことだ、さなえを冬に捨てただけではなく、再び苦しめようと言うのか。 あまりの怒りに、かなこのオンバシラがエンクスパンデットしそうになる。 そんなかなこに、飛びつく小さな影、 「変な事を言わないでください、さっきのは間違いです、さなえのおかぁさまはかなこさまだけです!」 さなえだった、さなえの言葉に感動し怒りを解くかなこ、れいむはその言葉に反論しようとしたが、急にニヤリと変な表情を浮かべると「れいむはしらないよ」などといい子供の元に戻っていく。 そこへゆっくりけーねが現れる、けーねはこの騒ぎに気がついていたのだが、仲裁に入るタイミングが分からずに居た、ちょうどお開きになった時を見計らってやってきたのだ。 けーねの発言によって、ゆっくり達は集団で狩りを始める事になる。かなこは狩りの最中もさなえに気を配り、さなえも不安なのかかなこについて狩りを行っていた。 問題のれいむは子供たちをまとわり付かせて遊んでいるだけで、ほとんど狩りに参加せず他のゆっくりに注意を受けると、自分は「しんぐるまざー」だと叫びだし、面倒くさがったゆっくり達に放置されることになる。 その日の狩も成功した、夕方にはゆっくり達の前には収穫が山となっており、どのゆっくりもそれを見て満足そうな顔をしている。 かなこの指示で、らんとけーねが食料を狩りに参加したゆっくりに等分していく、数字に強いらんと知識のあるけーねは、このような作業にはうってつけだった。 例のれいむにも公平な分配がなされた、れいむの前に食料を置くとき、一瞬らんとけーねは嫌そうな顔をするが、これ以上このれいむに関わりたくないのか、れいむにもさっさと渡すと、次のゆっくりの元へ移動する。 れいむが騒ぎ出したのはその時だった、 「なんなのぉ、これは?れいむには、おちびちゃんがいっぱいいるんだよ、もっとたくさんちょうだいね!」 「そうじゃよ、れいみゅはいっぱいだべるんじゃよ!」 「はやくちょうだいにぇ!」 「こんなんじゃ、ちゃりにゃいよ!」 「いしょいでにぇ!」 「こんなすこしなんちぇ、ときゃいはじゃにゃいわにぇ!」 「まっちゃくゆっきゅりしちぇいにゃいわ!」 「いにゃかもにょよ!」 「ちゃきゃいはにゃでにゃーができにゃいは」 「おちびちゃんたちもいっているよ、れいむはたくさんのおちびちゃんをそだてるしんぐるまざーなんだよ!ははのかがみでごめんね!」 赤ゆっくりは狩りに参加していない事を説明するらん、周りのゆっくり達もれいむに白い目を向ける、しかしその中には同情的な視線も混じっていた。 「なにいってるのぉ、おちびちゃんをみてゆっくりしたから、かりがせいこうしたんでしょ、ばかなの、しぬの、りかいしてね?」 しかし、これまでしんぐるまざーである事と、子供を使って物乞いを続けてきたれいむにとって、子供を見たらゆっくりできるというのは常識である、ならばごはんを多くくれるのは当たり前ではないか。 「何をいってるんだい、子供だけじゃなく、あんたも狩りに参加してなかっただろ!」 見かねたかなこが声をかける、れいむは尚も騒ごうとしたが、かなこに気が付くとその場は矛を収め、不満げな赤ゆっくり達をなだめると、自分の分の分け前を口に入れておうちへ帰っていった。 かなこは問題が終わった事に胸を撫で下ろす、しかし、これは甘い考えだった。 何よりも、かなこは戻ってゆく直前のれいむの表情を見ていなかったのだから。 分配が終わった後、仲間の希少種とも分かれたかなことさなえは、狩りの成果を口に入れておうちへと戻っていた。食料をおうちの倉庫に置き、夕食まで二匹でゆっくりし始める、今日はあんな事件があったせいか、いつも以上に甘えてくるさなえにすーりすーりを返すかなこは、心の中にくすぶる怒りを抑えていた。 あのれいむ、なんてゆっくりしていないゆっくりだろう、もしさなえが止めていなければ、オンバシラを使ってしまったかも知れない。 そんな時、二匹のおうちの入り口から音がする、警戒するかなこに外から声がかけられる。 「ゆ、ここはかなこのおうちでしょ、ゆっくりなかにいれてね!」 それは先ほどの問題のれいむだった、結界を取り外して中に入ってくるれいむ、怯えるさなえを後ろに隠し、かなこはれいむに問いかける。 「れいむ、もうすぐ暗くなる時間にいったい何の用だい?」 れいむを睨み付けるかなこ、そんな表情に気が付かないのかれいむが続ける。 「ゆぅ、わかっているよ、さなえのことでしょ、さなえはかなこにあげるよ、だからあまあまちょうだいね!」 その言葉に固まってしまうかなこ、何だとこいつは何を言っているのだ、さなえをあげるだと、さなえを捨てたお前が? 「きいてるの、そのゆっくりしていないさなえはあげるっていってるんだよ、だからかわりにあまあまをちょうだいね!」 ゆっくりしていない……? 「れいむは、ゆっくりしたかわいいおちびちゃんをそだてなきゃいけないんだよ!ゆっくりしたおかあさんでごめんね!?」 自分がゆっくりしているだと……? かなこは無言でオンバシラをれいむに打ち付けた、狭いおうちの中、はじめからかなこの前に現れたオンバシラはれいむだけでなく入り口の結界の残りと土も巻き込み、れいむを吹き飛ばす。 「ゆびしっ……ゆぎぎぎぎぎぃ……」 外に吹き飛ばされたれいむは顔に凹みを作りうめいているものの、生きているようだ。 「さなえがゆっくりしていないだと!ゆっくりしていないゆっくりは、れいむ、お前だよ!」 かなこの怒りの声が浴びせかけられる、結界を直しおうちへと戻るかなこ。 れいむはしばらく喚いていたが、しばらくすると立ち去った。 おうちの中へと戻ったかなこは、かなこを気遣ってくるさなえをなだめながら考えていた。 なんてゆっくりしていないゆっくりなんだろう、本当にあれが、かなこやさなえ、らんやけーねといったゆっくりと同じゆっくりなのだろうか、れいむの愚かな主張はかなこにそんなことを思わせていた。 そういえば、一緒に狩りをしていた他のゆっくり達もそうだった、能力も無いくせに自分達に寄生してきて、貰うときは一人前、あのゆっくり達はゆっくりしていると言えるのだろうか。 それは再びかなこを襲った他のゆっくり――通常種に対する不信感だった。 そしてこの事件は、かなこの常識に大きな楔を穿った。 ゆっくり達の大前提、ゆっくりはゆっくりしているということへ楔を。 それからしばらくは、かなこは同じように自分のグループの希少種と通常種のゆっくりで協力して狩りを行った。 あのれいむは痛い目に遇ったのが効いたのか、かなこたちの狩りに顔を出さなくなり、さなえを安心させていた。 ある日のこと狩りをしていると、ゆっくりの叫び声が響き渡った、群れのある地域のはずれから聞こえた声は助けを求めるもの、慌てて駆けつけたかなこ達が見たものは暴力を持ってゆっくりを痛めつけ、子ゆっくりを攫おうとするゆっくりの集団だった。 そう、例の群れがとうとう攻撃をかけてきたのだ。 襲撃をかけてきたゆっくり達は奇妙な点があった、こちらに向かって突撃してくるゆっくりと、後ろに並び木の枝を咥えたゆっくりの二種類が居たのだ、さらに奇妙なことにこちらに突撃してくるゆっくり達はみなゆっくり出来ないゆっくり――お飾りの無いゆっくりだったのだ。 思わずドスの襲撃を警戒するかなこ、しかし、噂に聞いたドスが襲撃する群れには見つからず、ゆっくりの数もこの群れもどきのゆっくりからすれば半分にも満たないものである。 勝てる、そうかなこは確信した、懸念対象であったドスは居らず、戦闘能力の高い希少種も見当たらない、数もこの地域のゆっくりからすれば小勢である。 すぐにここには地域のゆっくりが集まるだろう、時間を稼ぎ数がそろった所で一気に包囲殲滅してやる。 そう決めたかなこは、自分のグループを率いると襲撃する群れの前に立ちはだかった。 オンバシラを呼び出すかなこ、炎を出すもこう、体色を変え角を生やすけーね、九尾を逆立てるらんの口には鋭い木の枝が咥えられている。さなえに目をやるとえーりんがさなえを連れて後方に下がっていた。 これでかなこの懸念は消えた、時間を稼ぐべく、かなこ達はゆっくりできないゆっくりに飛び掛った。 戦いの結果はあっけないものだった、突撃してくるゆっくり出来ないゆっくりは戦意が低く、攻撃を受けると簡単に逃げ出す――最も、その攻撃は希少種達による苛烈なものだったが。 後ろに下がったお飾りのあるゆっくり達もかなこ達の攻撃を見ると及び腰になり、しばらくすると撤退してしまった。 多数で少数を囲んでいるときは強かったが、一度崩れると弱い、それがかなこ達の襲撃してきた群れに対する感想であった。 何とか襲撃を跳ね返したかなこ達、かなこのグループには損害は無く、地域の中でも最初に襲撃された一部がやられたほかには大きな被害は無かった。 しかし、それまで話でしかなかった群れによる襲撃が行われたのは事実であり、襲撃側も問題のドスの不在やその数から本来の力を出しては居ないと考えられる。 さらに問題があった、この群れもどきが作られたときに決められ、かなこが来ると考えていた増援が来ていなかったのだ、ゆっくり達は襲撃の報を聞くと逃げ支度に入っており、迎撃に向かったゆっくりは居なかった、かなこ達が撃退したと聞いてから戻ってきたゆっくりさえいたのだ。 やはり、この寄り合い所帯は問題だ、かなこはそう考えた、これでは本格的な侵攻には耐えられない。 そして、気が付く、やはりゆっくりだからゆっくりしている訳ではない、ゆっくりの中でもゆっくりの度合いが異なるのだ。 そして、多くがゆっくりするためには、ゆっくりできる――優秀なゆっくりが周りを導かねばならない。 この後、地域のゆっくりで集まりが開かれた、他のゆっくり達も襲撃に対する危機感は持っていたのか集会は速やかに行われた。 その場では、次の襲撃にどのように対処するかが話し合われたが、話し合いは平行線をたどる。 前回の襲撃を追い返したゆっくりとして、注目の集まっていたかなこは、ここで自説を披露した。 ゆっくりは全てゆっくりしているのではない、その種によってゆっくりの度合いが異なり、ゆっくりするためには優秀な種の元に集まり行動しなくてはならない。 しかし、ゆっくりはゆっくりしている、それはゆっくり達の常識である、だからこそお飾りの無いゆっくりなど異端を嫌うのだ。 もちろんゆっくり達も種による差異は知っており、どの種が優秀かなどは分かっている、しかしそこはゆっくり特有のうぬぼれと、能力の低い種は数が多いことが考えを止める。 「なに、いってるの、ばかなの、れいむはとってもゆっくりしているよ!」 こういうゆっくりほど声が大きく、言ったもの勝ちに成り易いゆっくりにとっては、それが正義になってしまうのだ。 かなこの提案は一笑に付された、結局この集団は群れになることが出来ず、襲撃の際の協力を再び確認しただけで集会は終わってしまう。 しかし、この地域のゆっくり達は少しづつまとまるようになっていく、大きな集団を形成したのは他より体の大きなまりさであった。 しかし、かなこは諦めなかった、何より自分のゆっくりのためにも思想の実現が必要だったのだ。 かなこと、それに協力する希少種のグループは密かに行動を開始した。 かなこはその後も、通常種との共同の狩りを続けながら、彼らを観察し、一つの結論に至った、能力が低いと一まとめにしてきた通常種のゆっくりだが、やはり数はゆっくりの最大勢力である。 また、通常種の中でも能力には違いがあることも確かめられた、希少種に及ばないものの道具の扱いに長け、戦闘能力の高いみょん種、お帽子を持ち輸送能力が高く、身体能力も平均以上であるため狩りの長けるまりさ種。 かなこは、最初にこの二種に狙いを定めた。 まりさ達は、かなこの説に同意はしなかったが、その狩りの能力の高さをほめてやり、煽てると途端にいい気になってかなこのグループに加わるように成っていった。 天狗に成り過ぎるまりさも、狩りにおけるかなこ達希少種の能力を見ると、目つきが変わる。 まりさ種はゲスに成り易い反面、利益に聡く、それを理解する賢さも持ち合わせていた。 みょん達はもっと簡単だった、みょん種は自分の力に自信を持っている者が多い、しかし他のゆっくりの力に敗れたときそれを賞賛する素直さも持ち合わせていた。 みょんの中でも最強と謳われたみょんを、かなこが倒すと進んでかなこのグループに加入した。 こうしてかなこは、まりさとみょんの二種で周囲を固めるようになる。 かなこは、グループの中で狩りの組織化を行う、かなこ率いるみょんの集団を狩場の捜索にあて、発見した狩場はらん率いるまりさ達で一斉に採集を行う。まりさ、みょん達の番で別の種の者たちを雑用としてけーねとさなえの指揮の下、おうちの整備や子ゆっくりを一箇所に集めての教育を行った。 また、狩り以外の時間にはまりさとみょんに簡単な訓練を施し、集団行動を練習させる。 その効果はすぐに現れた、襲撃を警戒して遠出が出来ないゆっくりが多い中、みょんを率いるかなこの行動範囲は地域のゆっくり達の中で最大になり、まりさ種による一斉収穫は高い効果を上げた。 またこの時期、群れへの襲撃が前回以降行われ無かった事も大きな幸いとなった。 もちろん問題も起きた、この地域のゆっくりの中に大きな勢力を作り出していた、例のまりさである。 まりさ種とみょん種を集めているかなこに対して、露骨に悪意をぶつけてきたまりさだったが、かなこのグループの成功により同属のまりさ達がどんどん流出してしまい、とうとう堪忍袋の緒が切れたのであった。 「ゆぁ~なにをやってるのぜ?あんなうさんくさいやつじゃなくて、まりささまにしたがうのぜ!」 しかし、そんなまりさも希少種とみょん、まりさを纏め上げたかなこに手出しすることは出来なかった。 こうして地域での勢力は、かなこ:6、まりさ:4という具合で落ち着き着いたときには、季節は秋に差し掛かっていた。 かなこのグループの勢力は地域で最大ものとなったが、かなこに同意していないものも多かった。 かなこは以前の主張どうり、ゆっくりの種による階級制を取っていたため、希少種とその下に位置するとされたみょん種とまりさ種以外からは嫌われており、グループのみょん、まりさの番でもそれ以外の種はあまりよい顔をしていなかった。 こんなかなこのグループにそれ以外の種が入るの躊躇うのは当然の事だったし、みょんやまりさの中にも他種を番にしている事からかなこのグループに入ろうとしないゆっくりも存在した。 秋に入ると、かなこは冬に向けて、グループを引きいて精力的に食料の収集を行った、まりさ種だけでなくみょん種も狩りに割り振り。それ以外の種で新しいおうちを作り、臨時の食料庫として越冬用の食料を溜め込んだ。 そうして、着々と冬への準備を積み重ねるかなこ達を、二度目の襲撃が襲った。 その襲撃を伝えたのは一匹のちぇんだった、狩りに出ていた先で、大量のゆっくりが移動しているのに気がつき、その先頭がお飾りのないゆっくりである事に気がついたちぇんは、狩りの成果を放り出しても群れにそれを伝えた。 騒然となるゆっくり達、かなこはただ冷静にグループのゆっくり達に迎え撃つ準備を命じた。 かなこが迎え撃つ場所として選んだのは、森の中にいくつかある開けた場所である。 敵の群れも前回より力を入れているのか、数は前回の数倍におよび、かなこ達のグループよりも明らかに多い。 前回と同じく前に飾りの無いゆっくりを置き、後方に枝を加えたゆっくりが並んでいる。 奇妙な点は、前列の飾りの無いゆっくりに傷を負っているゆっくりが散見される点だろうか。 かなこはみょんを引き連れて迎え打った、かなこの横に木の枝を加えたみょんが体をくっつけて並び、敵に向けて木の枝を向ける、その後ろではみょんより数は少ないがらんに率いられたまりさが並んでいる。。 戦いは敵の群れの飾りの無いゆっくりの突撃から始まった、後方のゆっくりの命令を受け突撃してくるゆっくり達。 しかし、ズラリと並んだ木の枝に飛び込むことは出来ずみょんの列の前でたたらをふんでしまう、蛮勇をもって突撃したものはみょんの咥えた木の枝で顔を刺されると戦意を喪失する。 止まってしまった飾りの無いゆっくり達に、みょん達の列の後ろのまりさ達の口から吐き出された小石が当る、みょんを超えるように放たれた小石の威力は、ゆっくりに取って大したことは無いが、一方的に攻撃されることにより後退するゆっくりが出始める。 敵の後列のゆっくりが動いたのはその時だった、一向に進まない飾りの無いゆっくりに嫌気が差したのか、枝を構え前進するゆっくり達、その時、らんの合図により、まりさ達が石を放つのを止め、かなこがみょんに合図を出して突撃をかけた。 迎え撃とうとする飾りの無いゆっくり達も、かなこのオンバシラが数匹のゆっくりを一瞬で潰すと、逃げに移った。 後ろに逃げ出してしていく、飾りの無いゆっくりが前進してきたゆっくりと衝突する、大混乱におちいった敵の群れの後方に回っていた、もこう率いる残りのまりさが現れると、戦意を喪失したのか逃走していく。 後を追おうとする、みょんをかなこが止めていると、こちらも計画どうり追撃をせずにいたもこうが戻ってきた、逃げる敵の前に居たため、傷を負ったゆっくりも少なくないが永遠にゆっくりしてしまったものは居ない。 敵が完全に居なくなったのを確認すると、ゆっくり達の中から歓声が湧き上がった。 かなこ達はこうした襲撃者に完勝することになる。 ちなみに、かなこと敵対していたまりさは、この襲撃にあって、番のれいむと一緒に逃げ出そうとしたらしく、仲間たちからの信用を失ってしまったらしい。 逆に、かなこのグループはこの地域のゆん望を集めることとなる。 そして冬の初め頃、冬篭りの支度を整えたかなこ達のグループへ、それ以外のゆっくり達が泣きついて来る事になる。 彼らは、それぞればらばらに冬の準備を行っていたため、越冬に十分な量の食料を集められないものが多かった。 そうして、いやいやながらもかなこの、種によるゆっくりの違いを認める事でかなこのグループに入り食料を援助して貰おうと考えたのだ。 かなこはそんなゆっくり達に、自分に従うことを約束させると、気前よく食料を援助した、かなこのグループにはそれだけの備蓄が存在したのである。 こうしたかなこは、やっと自分の群れを作る事に成功したのである。 ゆっくり公民 ~カースト制~(後編)へ続く……
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2064.html
「ゆっくりちくろ」 ある男がゆっくりを求めて山へ入った。 ゆっくりが幻想郷の甘味事情を一変させて随分と経つ。 加工所による廉価で安定した供給は、芋や果実では味わえない濃い甘さを庶民の手に届くようにしたが、 日々食べるとなれば滅多に食べれない頃とは味も変わってくる。 昔は甘味と言えば滅多に食べれないからこそとんでもなく甘く、売るほうも塩を入れて少ない砂糖で甘く感じさせたり、 どぎついほどに甘い物が高級品として出回ったものだが、毎日食べれるほどに普及した今では、甘さ控えめでいくつでも食べられる味が人気だ。 しかし男はそれでは満足できなかった。頭が割れるような強烈な糖分の塊が欲しかった。 そのためには自分で作るしかない。 開けたところに出るとゆっくりがいた。近づくと 「ゆゆ!にんげんがきたよ!」 「ゆっくりにげるよ!」 などと声がする。 「まりさがおとりになるからみんなはゆっくりいそいでね!」 そう言って一匹のまりさがこちらへ向かってきた。作戦を自分でばらしているのでは世話がない。 「ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだよ……ぜ!ば、ばかなにんげんはさっさとでていくんだぜ!」 近づいた後、人間の手が届かない所でとび跳ねながら挑発してくるまりさ。演技は大根だ。 男が目線を上げると、群れが右手の雑木林に入って行くところだった。 「なにそののろさ。うんちなの?しぬの?くやしかったらまりさをつかまえてみるんだぜ!」 男が歩きだすと大げさなほど後退して挑発し、誘うように左手へ跳ねていく。 (せめて口に出して言わなければなあ) そう思いながら男はまりさを無視して群れが消えた雑木林へ向かう。 「どぼじでそっぢにいぐのおおおお!?」 シカトされたまりさが口調も忘れて叫ぶ。 「まりざはごっぢなんだぜえええ!?ばがにずるまりざをいじめてみるんだぜええ!?」 男は顔も向けず、ゆるゆると雑木林に近づいていく。 まりさは必死に跳ねて追いつくと、ぼよんぼよんとコミカルな音を立てて男の足に体当たりをした。 「そっぢにはなにもないんだぜ!?まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?」 男が歩くたびに蹴られることになりながら、まりさはまとわりつくのを止めない。転がってもすぐさま向かってくる。 雑木林に入ると逃げたはずのゆっくり達がいた。 「まりさがにんげんをひきつけてくれるかられいむたちはゆっくりできるよ!」 「ゆっくりー♪」 どうやらまりさの囮で安心していたらしい。警戒も怠ってゆっくりしている。 「みんなにげでええええええ!」 まりさの声でれいむが視線を上げると、騙したはずの人間と、土で汚れたまりさがいた。 「俺は饅頭が食いたい。一匹差し出すなら他の奴らは見逃してやろう」 男は群れの前でそう告げる。 男が目の前に現れた時は狂乱状態になったが、逃げ出そうとする奴らは 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 条件反射の硬直時間を利用して手近な枝で串刺しにされた。 「逃げたら刺す」 比較的賢いゆっくりの集まりなのか、逃走が不可能と知るとおとなしくなった。 一人差し出せば、他全員の命が助かる。ゆっくりに対しては破格の条件と言えた。では、誰が犠牲になるか。 「おにいさん!さっきはごめんなさい!おわびにまりさをたべてね!」 そう言って真っ先に声を上げたのがおとりになったまりさだった。挑発の必要がなくなったからか、だぜ口調ではなくなっている。 「まりざだめえええ」 れいむが泣いて抗議をする。 「ゆ!れいむ!むれのみんながみつかったのはまりさのせきにんだよ!れいむはまりさのぶんもゆっくりしてね!」 「まりさはむれのためにきけんなおとりをやってくれたよ!これいじょうぎせいにならなくていいよ!」 群れ全体が沈痛なムードに包まれる。さながら出征の壮行会。 「あー悪いんだけどな」 「ゆ?」 「お前は土で汚れてるから駄目」 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 まりさの泣き顔が歪む。いったん決まりかけた安堵感を奪われ、群れのゆっくりたちの顔には戸惑いが浮かぶ。 まさか、自分が食べられなくてはいけないのか。原始的な恐怖は餡子脳を縛るには十分過ぎた。 群れのゆっくりはどれも平均より清潔で丸々としていた。どれを食べても当たりが期待できる。 「そっちで選べないんなら勝手に選ぶぞ」 「おにいさん、れいむをたべてね!」 沈黙に痺れを切らせた男がそう声をかけると、弾かれるように先程のれいむが叫んだ。 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 「れいむいっぢゃだめえええ!」 「ぢんぼおおおおお!?」 「むぎゅうううう!?」 「おねーしゃんちんじゃやだあああ!」 随分と信望があるれいむなのか、群れ全体が怒号を発して引き止める。そんな群れを慈しみをこめた目で見渡したあと、 れいむは男に向き直った。 「おにいさん!れいむならだいじょうぶだよね!?これでむれのみんなはゆっくりできるんだよね!?」 「直接危害は加えん」 そう返事をしてれいむを掴み、帰ろうとする。外では手も汚いし、携行の飲料水も乏しい。 「みんな、ゆっくりしていってね!」 「「ゆ、ゆっくりしていってね!」」 「むきゅん!だめよ!」 愁嘆場に背を向けたところ、物言いがついた。 「このばでたべてくれないとにんげんはしんじられないわ!」 「なにをいっでるのばちゅりぃぃぃ!?」 すわ身代りかと思えば予想外の抗議に、まりさは信じられないといった形相で叫ぶ。 「みんなよくきいて!にんげんはずるがしこいのよ!たべたあとににげたからってうそをついてまたくるかもしれないのよ! つらいけどむれのあんぜんのためにはみんながれいむはきちんとたべられたというしょうにんになるしかないの!」 「そんな……」 なんという猜疑心。その気ならば嘘をつかずに一斉に捕まえれば済むだけなのだが、第一ゆっくり相手の約束なんざ人間の温情で 成立しているようなものなのだが、気を回す割りにはその辺の前提がすっぽり抜けている。所詮饅頭の知恵。 男は腹が減っていることは確かだったので、適当に塵を払ってかぶりつく。 「ゆっ……!」 れいむの押し殺した声が聞こえた。さらりとした上品な甘さ。美味いが、この程度なら人里で買えば済む。 「あんま美味くないなあ」 「れいむがおいしくないわけないでしょおおお!!!」 男のつぶやきに、まりさがどこかずれた反論を叫ぶ。 この短時間に感情の振幅が激しかったためか、髪が乱れて目の輝きが尋常ではない。 あちらを素直に食っておけばよかったかと思ったが、約束したのでれいむを食うことにする。しかし甘みが足りない。 ゆっくりは苦痛を味わうほどに甘くなるらしいが、汚れた手で餡子をいじりたくないし髪飾りもきちんと味わいたい。 仲間を殺すさまを見せるのがスタンダードだが、約束したのでそれも出来ない。 傷を付けずに苦痛を味あわせる方法。設備もない野外で出来ることは何か。野外だからこそ出来ることは何か。 『まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?』 「あ」 思いついた。 「なあれいむ。お前の家に案内してくれないか?」 巣は目の前にあった。上手いこと根の隆起を利用して屋根にした穴だった。 中にゆっくりがいればともかく、単体としてはただの気にも留めない深めの穴だ。 奥をのぞいてみると滑らかな石や昆虫の死骸が貯め込まれていた。 「ここがれいむのおうちかあ」 男は意識して柔らかいしゃべり方で話しかける。 「大きくて住みやすそうだね。作るの大変だったろう?」 「うん……まりさもてつだってくれて、ふたりで……」 痛みに堪えながら、かじられた頬が動かぬよう小声でれいむが答える。 「まりさは一緒に住んでないの?」 「むきゅ!けっこんしてないふたりがおなじやねのしたにいるのはふうきがみだれるわ!」 ラブコメの外野のようなことを言うぱちゅりー。 あれだけ仲がいいのにつがいではないということは、大きさでは分からないがまだ成熟し切ってないのだろう。 甘みが少ないわけが納得できた。ともあれ、 「もう誰も住まないなら壊していいよね」 そう言って、足で穴を崩していく。 「れいむのおうちがあああ!」 「でいぶとまりざのだからものがああ!」 叫ぶと共にこぼれる餡子を受け止め、舐める。甘さが強くなったが、まだ足りない。 もっと悪魔のように黒く天使のように純で、まるで恋のように甘くなければ駄目だった。 土が宝物の石も昆虫も埋めていく。淵を削って落とし、深い穴が広く浅いくぼみに変わったところでよく踏んで均す。 「おもいでのだからものおおおお!」 半狂乱で掘りかかろうとするまりさ。しかし踏み固められた地面は簡単には掘り進めない。 穴掘りに夢中になっているまりさは放っておいて、男は群れの一同に語りかける。 「なあみんな。これでれいむとお別れだ。何か言っておくことはないかな?」 「れいむ、いままでありがとう……」 「みんな……」 「いやそんなんじゃなくてね」 「「?」」 「今まで気を遣って言えなかった不満、無いかな?」 「れ、れいむはまりさといちゃいちゃしすぎよ!ふしだらだわ!」 「れいむにふまんなんてないよ!」 と言っていた一同だったが、 「れいむがおいしくないと他の子も食べちゃうかもなあ」 と脅すと、口火を切ったのはぱちゅりーだった。それでもまだ注意するような物言いだ。 「とかいはにいわせてもらえばれいむはまりさにたよりすぎよ!こんかいだってもっとおくまでにげていればよかったのよ! それをれいむがあんぜんだっていうから……いうがらああああ!ぁぁあれいむじなないでぇぇええ」 責めてると思ったら泣き出すアリス。これなんてツンデレ?それも次の告発で終わる。 「おねーしゃんはまりしゃたちにおやつはきまったじかんにっていってるのに、よるまりしゃおねーしゃんとこっそりたべていてずるいよ!」 「なんでじっているのおおぅ!?」 「どういうことよれいむうううう!」 「あいびきだねわかるよー」 「まりざはわたざないがらあああ!れいむがいなくなったあどひとりじめするがらああああ!」 死にゆく者にムチ打つありす。 「むきゅ!れいむ!つごうのいいときだけるーるをおしつけるようではわるいこよ!」 追討ちをかけるぱちゅりー。 「わるいこがたべられるのはじごうじとくだねー、わかるよー」 本当に分かっているのか傷口に塩を塗り込むちぇん。 「ちぃーんぽっ」 もはや何言ってんだか人間では分からないみょん。 「「ゆっくりしんでいってね!」」 逢引が発覚しただけでこの言われよう。果たしてまりさはどれだけのフラグを立てていたのか。 さっきまではれいむは命がけで群れを救おうとする尊い犠牲だったのに、今では公開処刑、吊るし上げである。 「れいむ!たからものをほりかえしたよ!まりさはれいむのことをずうぅっとわすれないよ!」 天然スケコマシがやりとげた笑顔で戻ってきた。しかし離れていたうちに急変した場の雰囲気についていけない。 「どぼじでみんなれいむのわるぐちいっでるのおおおおお!?」 「まりさ!おいしくないれいむがわるいんだよ!」 「むきゅ!くるしむとおいしくなるということは、おいしくないれいむはくるしんでなかったのね!」 「れいむほどゆっくりしてるゆっくりがおいしくないわけないでしょおおおお!?」 「いいおもいばかりしてるわるいゆっくりなんだねー。わかるよー」 「おばえらにでいぶのなにがわがるっでいうんだあああああ!」 矢継ぎ早にれいむを罵倒されたまりさは声を張り上げて仲間に襲いかかった。 「おいしくなくてごめんなさい……おいしくなくてごめんなさい……」 れいむは泣きながら謝り続けている。そろそろいいかと餡子を舐めてみる。脊髄に衝撃が走るほどに甘い。かなりいい感じだ。 だがもうちょっといけそうか? 「れいむ。見てごらん。まりさが暴れてるよ」 そう声をかけると、れいむの目の焦点が定まる。 「まりさっ!?」 まりさは複数の仲間に体当たりを繰り返していた。ぱちゅりーは一撃で中身をこぼし、ありすとちぇんがまりさの攻撃を受け止めている。 「ちーんぽっ」 その隙にみょんが頭上からのしかかり、押さえつけた。 「まりさ!わるいのはれいむなの!」 「れいむはなに゛もわ゛るぐないいいい!」 「わるいの!おいしくないれいむはくるしんでないずるいゆっくりなの!」 「れいむ。助けたかった仲間が死にそうだねえ」 「ゆゆ!?」 「ほら、ぱちゅりー。体弱いんだろ?」 二匹だけの世界に入っていたところを引き戻す。ようやく瀕死状態のぱちゅりーに気付いたようだ。 「ああああ゛ぱちゅりぃぃぃぃ!どおじでえ゛え゛え゛え゛」 滂沱の涙で手が濡れる。甘ったるい匂いはシロップか。 「ごめんなさい!ごめんなさい!ゆっくりばっかりしているわるいれいむでごめんなさい!おいしいものたべててぼめんなさい! まりざといっじょにたべたぢょうぢょざんおいじがったですうう!おはなさんはなんでもおいじがっだですうう! つめたいおみずおいじがったでずうう!でいぶはどろみずがおにあいでしだあああ!」 どこかのマラソン選手を彷彿とさせる言葉を発し始めたれいむ。その餡子を男は鬼気迫る形相で食らう。 甘い、甘いぞ。既に舌の感覚がなくなるほどなのに、舐めるたびに甘みが毒々しく舌を打つ。甘過ぎて頭痛がする。 それでいて瑞々しく、食べるたびに喉の渇きが癒される。 「おうちにすめててごめんなざい!まりざにてづだわぜでごめんなざい!れいむはまりざをひどりじめしようどしていたわるいこでずうう! ともだぢがいてごめんなざい!みんなでずるひなたぼっごぎもちよかったですうう!あかちゃんたちかわいかったですうう! いっばいおうだをうだってゆっぐりしまじだあああ!ありずどばちゅりぃぃ、めいわくかけてごめんなさいいい! ちぇんとみょん、いつもおぞくであじをひっばっでごめんなざい!!れいむはみんなどながよぐできでてじあわぜでじたあああ!」 走馬灯のような懺悔が紡がれるたびに、騒いでいた群れが静かになる。れいむがどれだけ自分たちのことを大事に思っていたか分かったのだ。 そのれいむに、ひどいことを言ってしまった。 「ごめんなさい!れいむのことわるいゆっくりっていってごめんなさい!」 「うまれでぎでごめんんざいいい!いづもあまえででごべんなざいいい!」 詫びの言葉は届かない。れいむが錯乱状態にあるのはもちろんのこと、恐ろしい速さで男がれいむを貪っているからである。 既に顔面とそれに付随する餡子しか残っていない。それも一口で噛み砕かれる。最期におかあさんとだけ残して、れいむは男の腹に消えた。 男が我に返ると残りのゆっくり達が汚れたまま放心していた。 ぱちゅりーは死亡。まりさも強く押さえつけられて瀕死。ありす、ちぇん、みょん、とばっちりを受けて子ゆっくりもぼろぼろだ。 存在すら忘れられていた、串刺しにされたゆっくりもいる。かつての清潔さと福々しさは見る影もない。 どうしてここまでこの群れは崩壊してしまったのだろう。俺はただ美味しいお菓子が食べたかっただけなのに。 そう思いながら今度こそ男はその場を後にした。 このSSに感想を付ける